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<地球ING・進行形の現場から>欧州最大の動物愛護施設

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ペットと家庭仲介 殺処分ゼロ

 ベルリン東部のブランデンブルク州との境界近くにある「ベルリン・ティアハイム」は、欧州最大の動物の収容施設だ。ドイツ語で「動物の家」を意味するティアハイムは日本の自治体が運営する施設と同様、引き取り手のない犬や猫などペットとして飼育される動物を引き取り、新たな飼い主に仲介している。だが、ここでは長期間引き取り手のない動物や問題行動のある犬なども殺処分されることはない。ドイツ人に根付いた動物愛護精神を象徴する施設と言えるが、一方で、インターネットの普及や国際化するペット取引などによって新たな課題に直面している。

 ぴかぴかに磨かれたガラスに顔を寄せ、カトリーナ・ヤーニさん(72)は子猫を見つめていた。「ここはブリーダー(繁殖家)とは違い、動物の健康状態に関する情報も公開していて安心できる。以前ここで引き取った猫が19歳で天寿を全うしたので、新しい家族を見つけに来た」と話し、夫とともに施設内を何度も行き来していた。

 約16万平方メートルの敷地を有する施設には、常時約1600匹の動物がいる。猫は500〜600匹、犬は250〜300匹を占める。これとは別にウサギなどの小動物や鳥、イグアナやリクガメなどの爬虫(はちゅう)類も保護されている。中には違法に飼育され、行政機関に押収されたサルもいる。個人の飼育が禁止されている動物はここで一生を過ごす。

 ドイツではブリーダーへの法的規制が厳しく、成犬の飼育は10匹までに制限されており、生後8週未満の子犬の引き渡しは禁止されている。日本の改正動物愛護管理法(2013年9月施行)も生後56日以内の引き渡しを禁じたが、現在は移行期間として「生後45日以内」としており、ドイツの方がより厳格だ。ブリーダーが子犬の購入希望者に要求する基準も高く、十分な飼育経験や経済力を求めるため、安易な取引が防がれてきた。だが、ネット上の取引の拡大がペット市場を変えている。

 「最近のことですが、高齢の女性が前日に飼い始めた子犬を連れてきて、面倒だから引き取ってほしいと言うのです」とティアハイム職員のウルフ・ホフマンさんが明かす。女性は独り暮らしの寂しさからオークションサイトで子犬を購入したものの、トイレのしつけができていないことに腹を立て犬を施設に持ち込もうとしたという。「こういう例は以前にはなかったこと」とホフマンさんは語る。

 また、ドイツでも日本同様、純血種の犬などに流行が目立つようになっている。ハリウッド映画の影響でダルメシアン人気が高まったり、小型犬ブームでジャックラッセルテリアが高額で取引されたりするようになった。だが、規制の厳しい独国内でブリーダーの数は増えない中、需要が急増。東欧諸国など欧州連合(EU)内の国外業者が繁殖させた犬が持ち込まれることが増えた。ホフマンさんは「車でポーランドにでかけ、数ユーロ(1ユーロは約130円)の安い価格で純血種の犬を買う人もいる」と指摘する。こうした犬の多くが過剰繁殖による遺伝病を抱えており、ティアハイムに持ち込まれる例も出ている。

 「心臓病が持病。生涯にわたり薬代と診察代はティアハイムが負担します」。犬や猫が入れられた部屋のガラス戸には張り紙があり、名前や性別のほか、健康状態に関する情報も記されている。持病がある動物も新たな家庭に引き取ってもらえるよう、ティアハイムでは必要な医療サポートを保証している。

 ドイツの動物愛護の歴史は古い。プロイセン王国時代の1841年、同国の官僚だったゲアラッハ氏が馬車馬の酷使や動物虐待に反対する組織を設立した。それが現在のベルリン・ティアハイムの礎になっている。来年には創立175周年を迎える施設は、1990年の東西ドイツ統一以降、ベルリン全域の動物保護を担う。業務は、飼い主から持ち込まれた動物の保護▽市内で保護された犬や猫の預かり▽野良猫の去勢▽反動物虐待キャンペーンの推進−−など多岐にわたる。

 市民ボランティアがこうした活動をサポートする。看護師のケート・ルプターさん(52)は「動物のために何かしたいという思いで週に2〜3回来ている」という。シェパード犬のシェド(雄、5歳)とは知り合って2年。優しく頭をなでてやりながら「何度か仲介の話はあったがうまくいかなかった。一日も早く温かい家庭に引き取られることが願い」と話す。

 現在は約250人がボランティアとして登録しており、犬の散歩や施設の清掃、施設ガイドなどを行っている。だが、ボランティアは常に不足状態で、刑罰の代わりに社会奉仕命令が出された人を受け入れるなど人員確保が課題になっている。

 日本国内では13年度、引き取り手のない犬猫約12万8000匹が殺処分された。ドイツでもかつてはティアハイムで殺処分が行われていた時代があった。だが、社会運動として動物愛護の動きが強まったこともあり、現在は行われなくなった。そのため、長期間施設にとどまる動物の仲介が問題になっている。

 「一度人にかみついた犬は問題犬として扱われるため、格段に仲介が難しくなる」とホフマンさん。ベルリンの施設では長期収容していた大型犬を8月に市外の家族に引き渡すことに成功したが、それまでに試験期間を設け、何度も希望者に対して飼育法の指導を実施するなど多くの手間が必要だった。だがこうしたケースは例外で、人を寄せ付けず攻撃性の強い犬は仲介できず、数匹が長く施設にとどまり続けている。

 ベルリン・ティアハイムの運営を行うベルリン地区動物愛護協会は自治体から財政支援を受けず、自主財源で施設を運営している。施設全体で年間800万ユーロ(約10億6000万円)の運営費が必要だが、毎年赤字は出ていない。会員約1万5000人の会費もあるが、収入の9割以上は一般の人や企業からの寄付だ。篤志家が「財産は動物保護に」と遺言することも多い。こうした非課税の収入が重要な財源になっており、殺処分のない終生飼育を支えている。

 ドイツでは02年に憲法である基本法に次世代への責任として「動物の保護」が明記された。動物愛護の動きは家畜の飼育環境向上などへと広がりを見せており、殺処分が行われていた時代への逆戻りは考えられない。だが、ペットの商品化や知識の乏しい飼い主の増加などを受け、ティアハイムに求められる役割は多様化している。<ベルリン・中西啓介>


 ■取材後記

 難民問題の取材で欧州各地を歩くと、国によって犬や猫の扱われ方が異なることに気づく。アテネでは、放し飼いにされた犬が道ばたで眠りこけ、野良猫たちはパルテノン神殿を居城にする。対してベルリン。しつけの行き届いた犬は飼い主に寄り添い、猫は窓際から行き交う人を眺めている。ドイツでは犬や猫は本能のままに生きる「動物」ではなく、家族としての地位を獲得している。

 だがティアハイム取材では、独国内でも人間の意のままに動物の命がもてあそばれる現実を目にした。「子供にねだられて飼い始めたけど飽きてしまった」という理由で持ち込まれたウサギ。持病の治療費が払えないと捨てられた犬や猫もたくさんいた。

 日本の自治体が運営する施設での現実はここでも同じだ。救いは命が奪われる心配がないこと。オルトさんは「動物を大切にする価値観を日独は共有している」と日本での状況改善を楽観した。ぜひその期待に応えたい。

「次世代への責任」法制化で浸透 ドイツ動物愛護法協会副会長、元検察官、ヨースト・オルト氏

−−ドイツではティアハイム施設が充実しています。

 ◆2002年の基本法(憲法)改正で「次世代への責任」として、国が法で定められた枠内で動物を保護することが明記されました。これはドイツ人に長年根付いてきた動物愛護の精神を象徴するものです。ティアハイムの活動をサポートするという意味でも、こうした法律の整備が大きな役割を果たしています。

−−ドイツではなぜ動物愛護の法制化が進んでいるのでしょう。

 ◆起源は19世紀までさかのぼります。動物愛護運動は特に英国やドイツで盛んでした。独国内ではビスマルクがプロイセン王国の首相を務めていた1871年に初めて法律で動物虐待が禁止されました。「公衆の面前で、もしくは不快感を起こす方法で動物を虐待した者」に刑事罰を科すものです。ただ当時は動物が「物」として扱われていました。本当の意味で動物愛護精神を含む法律が制定されたのはナチス時代の1933年です。旧西独時代の72年には、新たな動物愛護法が作られ「合理的な理由なしに、原則として動物を殺してはならない」ということが規定されました。「合理的」の内容を巡ってはさまざまな法解釈がありますが、食料になる家畜、研究目的、狩猟対象などの動物が該当するとみられます。

−−こうした法律は十分なものでしょうか。

 ◆ティアハイムで主に扱われているのは犬や猫などペットとしての動物なので、こうした法律が一定の役割を果たしていると言えます。しかし、基本法が国家目標とする動物の保護という目的からすると不足があります。たとえば家畜の鶏や豚などを狭いスペースに押し込め、生産効率を上げるというような飼育方法が合法なのかという問題です。(最高裁にあたる)独憲法裁判所はこれまでこうした飼育を容認する判決を出してきました。動物の幸福を考えるなら、法律を改正すべきでしょう。

 また、ペットの安楽死についても十分な規定がありません。苦しみながらも安楽死が許されない例がある一方、病気になったからといって経済的理由で安易に安楽死させられる事例もあり、法的な規定が不可欠です。

−−日本では依然として多くの犬猫が殺処分されています。

 ◆今でこそドイツのティアハイムでは殺処分は行われていませんが、私が初めてティアハイムを利用し犬を引き取った73年当時は、当たり前のように殺処分が行われていました。当時、長い犬は1年以上施設におり、リストに「来週までに引き取り手がない場合は殺処分にします」と書かれていました。今では考えられないことです。こうした国民意識の変化は動物愛護法の制定や憲法改正などの法整備に伴い徐々に浸透してきたのです。日本でも新たな法律が施行されており、やがては殺処分ゼロに向けた意識が形成されるだろうと期待できます。

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