メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

  • 政治プレミア
  • 経済プレミア
  • 医療プレミア
  • トクトクプレミア
SUNDAY LIBRARY

INTERVIEW 工藤美代子

[PR]

国民との黙約を人生をかけて守り通す

◆『皇后の真実』工藤美代子・著(幻冬舎/税抜き1700円) 

     戦後、人々が皇室を見る目は大きく変貌した。

    「70年を過ぎても、日本人全体がまだ戸惑っています。マスコミも、過剰な敬語を使って絶賛するものから悪意に満ちたものまでいろいろ。私自身、立ち位置をしっかり決めて書かなければと強く思いましたね」

     これほど対象者との距離の取り方が難しい作品はなかったと振り返る。欧米の作家が作品ごとにどのボイスで書くかを決めるように、皇室を扱う場合も、対象によって敬語をどこまで使うかが変わってくるという。

    「今回は、なるべく普通の常識的な“声”で語る以外ないと考えました」

     皇太子妃となるまでは“美智子さん”と記し、民間で育ったお嬢さんが宮中へ輿(こし)入れする世紀の一大事を、記録映像のように淡々と再現した。

     巷(ちまた)はミッチーブームで沸いたが、初の民間妃を待ち受けたのは女官長らの強固な抵抗勢力。当時、東宮教育係でお妃選びの中心にいた小泉信三が“正田美智子さん”に白羽の矢を立てたのは、家柄、気品に加え、逆境に耐え得る資質を見込んだからである。

    「美智子さんサイドは本当に何度も辞退しているんです。それを小泉さんが一生懸命に正田家を口説いた。でも、彼は甘い言葉は一切言わなかったはずです。逆に、いかに大変かを伝え、だからこそあなたじゃなければダメなんだと。今上天皇もよく頑張られたと思います」

     連夜、電話をかけ、長時間にわたって直接説得を重ねられた。“柳行李(やなぎごうり)一つで”の言葉で求婚したという話は、後に天皇自らが否定している。

     美智子皇后に関して流布した噂(うわさ)は数えきれない。中でも三島由紀夫との見合い説は衝撃的だった。三島本人が語って記事にもなったが、最も真実を知る人物の証言から“三島の妄想”とわかる。

    「みんな信じていたんです。小説家って、ウソをつくんですよ(笑)」

     「『伝説』は文学の領域だが、『事実』は実証性に基づかなければならない」。この一文に、ノンフィクション作家の矜持(きようじ)がうかがえる。

     昭和天皇が美智子妃を叱責し、宮中でキリスト教に触れることを禁じたと伝わる「聖書事件」。その真相は、昨年公開された『昭和天皇実録』にあった。「心に思ったことさえなかった」ことが、当の皇族方の目や耳に届かぬところで創り上げられ、信じられてきたことに驚かされる。平成の世に移ってからも、皇后は新たなバッシングに襲われた。

    「バッシングした雑誌の編集部にいた人は、とにかく売れたと言う。過激な話ほど世間は喜び、売れる。そんな循環ができてしまったんですね」

     多くを語れない分、折々に詠まれたお歌に皇后の心中が覗(のぞ)く。高齢となり、ともに病を抱えながら、天皇と続けられる慰問と鎮魂の旅−。

    「皇后さまはご結婚なさる時から覚悟しておられたはずです。自分の生涯は愛と犠牲を貫くのだと。それを国民との黙約としてご自身に位置づけられた。皇后さまは一貫して変わらない方です」

     めまぐるしく変わる時代の中で、「本書が将来の皇室を照らす一灯になれば」と語る。

    (構成・山内喜美子)

    −−−−−

    くどう・みよこ

     1950年、東京都生まれ。91年『工藤写真館の昭和』で講談社ノンフィクション賞受賞。ラフカディオ・ハーンや岸信介、笹川良一の評伝など著書多数。皇室については、貞明皇后、香淳皇后、三笠宮寛仁親王を題材とした作品がある

    <サンデー毎日 2015年11月29日号より>

    おすすめ記事
    広告
    毎日新聞のアカウント
    ピックアップ
    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 飛び降りようとした女子中学生、引き留めた男性に感謝状 福岡・宗像

    2. 高校野球 星稜・林監督「奥川、末恐ろしい。こんな選手には一生めぐり合わない」

    3. 女性タレントがサーファー救助のお手柄 警察が感謝状 千葉・一宮海岸

    4. 感謝状 橋に人影「もしや」説得し自殺防ぐ 女性を表彰 

    5. 投資家の滝本哲史さん死去 47歳 京大客員准教授 「僕は君たちに武器を配りたい」

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    今週のおすすめ
    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです