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岡崎 武志・評『フォトアーカイブ 昭和の公団住宅』『わが心のジェニファー』ほか

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支え合って暮らす場所だった

◆『フォトアーカイブ 昭和の公団住宅』長谷田一平・著(智書房/税抜き2000円)

 日本住宅公団(現UR)発足から今年で60年。敗戦後の住宅難を解消すべく生まれた公団住宅。2DK、シンク、内風呂、水洗トイレと、高度成長期の庶民にとって憧れのライフスタイルを創出した。

 『フォトアーカイブ 昭和の公団住宅』は、めくり始めると止まらない。編者の長谷田一平は、『団地新聞』で記者を務めた人物。残された団地写真、約13万点から328点を厳選、テーマ別に分類、解説を付す。高島平、ひばりが丘、高根台、常盤平など続々登場。

 見て気づくのは、集会、祭り、運動会、パーティーと、団地ごとに独自のコミュニティーが作られていること。また、子どもの多さにも目を見張る。たこ揚げ、コマ回し、紙芝居と、どの場面でも笑顔の子どもたちが遊んでいる。

 「明日は今日よりもっとよくなる」と思われていた時代を象徴するのが昭和の団地だった。長谷田は「老若男女がお互いに支え合い、生き甲斐(が い)を感じることのできる“協働社会”」のモデルをそこに見いだすのだ。

◆『わが心のジェニファー』浅田次郎・著(小学館/税抜き1500円)

 浅田次郎『わが心のジェニファー』は、米国青年・ラリーが、恋人ジェニファーに求愛するところから始まる。だが、彼女はこう言った。「日本を見てきてほしいの」。それを手紙で報告してほしいと。青年は一路日本へ。東京、京都、大阪、九州、北海道と神秘と美の地を巡り学ぶ。日本人の善悪の判断は、神の名における正義ではなく、個人の羞恥心に委ねられている。そして驚きの結末が日本で彼を待っていた。深い感動を呼ぶ長編小説。

◆『FAILING FAST マリッサ・メイヤーとヤフーの闘争』ニコラス・カールソン/著 長谷川圭/訳(角川書店/税抜き1800円)

 カバー写真の美女は、ネット業界で勝ち抜いた。ニコラス・カールソン(長谷川圭訳)『FAILING FAST マリッサ・メイヤーとヤフーの闘争』は、グーグル副社長から37歳でヤフーCEOに上り詰めた女性の物語。しかしこれは単純な成功譚(たん)ではない。群雄割拠するネット「戦国時代」において、期待されたメイヤーの戦略は失敗。彼女は「救世主か破壊者か?」。ビル・ゲイツ、孫正義など、ネット界の巨匠も登場。知られざる内幕が開陳される。

◆『家へ』石田千・著(講談社/税抜き1600円)

 エッセイストとしても定評のある石田千が、『家へ』では、その静かで精密な文体で小説世界に斬り込む。新潟の海辺の町で育った「シン」は、東京で彫刻を学ぶ美大生。故郷で待つのは母と、「じいさん」と呼ばれる内縁の夫だ。実の父親とも交流があるという複雑かつ自然な環境で、「シン」は将来を含め、迷いもがく。「生きているうちは、ひとりきりでなんていられない。それでも、みんなを締め出したくなる」。みずみずしい情感が読者の心を浸す。

◆『焚火かこんで、ごはんかこんで』どいちなつ・著(サウダージ・ブックス/税抜き1500円)

『焚火かこんで、ごはんかこんで』の著者・どいちなつは、長年の街暮らしから、22年ぶりに故郷の淡路島へ帰ってきた料理家。そこで知ったのは、「焚(たき)火のあとに食べるごはんとその時間」の豊かさと深さだった。対象に優しく迫るカラー写真と、食のレシピと詩と散文で、ていねいに作られたこの本からは、焚火のような温かなぬくもりが伝わってくる。淡路島発のナチュラルな実践。「それじゃ、ごはんができるまで/焚火をかこんで話そうか」

◆『がんばれ!盲目の犬レディ』山本博・著(岩崎書店/税抜き1200円)

 アテネオリンピックで銀メダルを獲得した、アーチェリーの山本博。お祝いにもらったシルバーダックスが、全盲であることがわかる。そして、その犬をかわいがる先輩犬のトランプが末期がんに侵されていることも。そんな山本一家の物語が『がんばれ!盲目の犬レディ』。相手の心に寄り添うこと、自分に何ができるかを考えること。言葉を介さないからこそのコミュニケーション。「かわいそう」ではなく「ありがとう」から始まる愛情に癒やされる。

◆『夫婦の散歩道』津村節子・著(河出文庫/税抜き780円)

 津村節子は、故・吉村昭と同人誌時代に知り合い、ともに作家同士として道を歩んできた。その五十余年を回想するのが『夫婦の散歩道』だ。部屋代が払えず、畑の中のアパートで暮らした苦闘時代。文壇づきあいを嫌う吉村が、作品を一番先に読ませるのが妻・津村だった。がんで吉村が死去してからも、夫の作品を管理し、本が出るたびに序文やあとがきをつけるなどの仕事に忙殺された。妻であり、同業者の著者でなければ書き得ない春秋がここにある。

◆『ヒマラヤのドン・キホーテ』根深誠・著(中公文庫/税抜き820円)

 根深誠『ヒマラヤのドン・キホーテ』の主人公・宮原巍(たかし)は、今から半世紀近く前、世界最高峰のエべレストを望むヒマラヤ山中に、ホテルを建設した男。まだ30代だった。宮原はのち、ネパールに住みつき、国籍を取得、ついにはネパール国土開発党の党首となる。自身もヒマラヤ登頂を果たした登山家の著者は、挑戦と挫折を繰り返す宮原に深く共感し、その冒険者としての生き方を描き出す。読者は同時にヒマラヤの歴史も知ることになる。

◆『水車小屋攻撃 他七篇』エミール・ゾラ/著(岩波文庫/税抜き860円)

 19世紀フランスの作家、エミール・ゾラは『居酒屋』『ナナ』などの長編で、わが国の自然主義文学をはじめ、演劇などに多大な影響を及ぼした。彼は短編小説の名手でもあったことを『水車小屋攻撃 他七篇』(朝比奈弘治訳)が示す。普仏戦争を背景に、田園生活の中で繰り広げられる恋、そして市民を死に追いやる戦争の愚劣と本質を描くのが表題作。ほか、多様な人生のあり方を悲劇的に、または喜劇的に表出する手腕がこの一冊で味わえる。

◆『糖質制限の真実』山田悟・著(幻冬舎新書/税抜き780円)

 ダイエットに、糖尿病予防に、ご飯もパンも麺類も炭水化物は極力避ける。この「糖質制限」がブームとなっている。『糖質制限の真実』の著者・山田悟は、食べる喜びを残す糖尿病治療を続ける経験から、極端ではなく「緩やかな糖質制限食(ロカボ)」を提唱。低糖質を意識し、糖質を上手にとるなら、満腹になってもいい、というのが画期的だ。ざる蕎麦(そば)、全粒粉のパン、果物など、いいのか悪いのかも個々に解説しており、有益だ。

◆『世界は解らないコトだらけ、なので調べてみた』阿部亮・著(扶桑社新書/税抜き720円)

「過払い金の無料診断ダイヤル」のCMでおなじみ、新宿事務所社長が阿部亮。『世界は解らないコトだらけ、なので調べてみた』は、子ども時代から疑問に思っていたことを基本に、宇宙、地球、物理、人類、生物など、各分野にわたり徹底調査し、わかりやすく教える。「宇宙の始まり」もあれば、「巨大地震の起こるワケ」「美白ブームの恐ろしい未来?」「身近な猛毒危険生物」など、幅広い好奇心で、疑問に答えてくれる。親子で楽しめる一冊だ。

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おかざき・たけし

 1957年生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。『上京する文學』をはじめ『読書の腕前』など著書多数

<サンデー毎日 2015年12月6日号より>

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