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<報道番組批判・意見広告>放送法「政治的公平」 識者の見解は

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 報道番組のキャスターが安全保障関連法成立直前に廃案を訴えたことを批判する意見広告が、読売新聞と産経新聞に掲載された。番組編集にあたって「政治的公平性」などを求めている放送法の規定を根拠にしたものだ。一方で、放送法は「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること」を原則に掲げている。放送法の読み方について、有識者から意見を聞いた。【青島顕、日下部聡、須藤唯哉】

    4条 国家権力介入防ぐため 西土彰一郎・成城大教授(憲法)

     放送法の定める「政治的公平」を4条だけで解釈するのは誤りだ。1条は放送の自律、表現の自由の確保などを定め、憲法も表現の自由を保障している。法体系全体を見れば、放送局が政府から独立した存在と位置づけられるのは明らかだ。政府の主張を番組内で公平に扱うことを義務づけた規定ではなく、放送局が自律的組織であるための倫理を明確化したのが4条だ。

     政府もかつては基本的にそう解釈していた。ところが、1993年にテレビ朝日の椿貞良報道局長(当時)が「反自民の連立政権を成立させよう」などと日本民間放送連盟の会合で発言し、自民党から問題視されたことを契機に政府は解釈を変え、行政指導をするようになった。

     私はもともと、放送法の定める▽政治的公平▽事実の報道▽多角的論点の提示−−などは国家権力の介入を防ぐための格調の高い条文と考えていた。しかし、逆に介入の口実になる余地があるのなら、むしろ表現の自由を保障した憲法21条に違反すると主張すべきかもしれない。憲法学界ではそうした声が高まりつつある。

    キャスターの個人差 当然だ 服部孝章・立教大名誉教授(メディア法)

     「政治的公平性」は目安と見るべきだ。一つの番組内でバランスを取るのは不可能。政治家を招いた討論番組でさえ、一方の立場の党派が出演依頼に応じないということも起きている。

     対立する問題について、双方を丁寧に紹介しろという主張は理解できなくもない。しかし、それを突き詰めれば「余計なことを言うな」ということになりかねない。岸井氏は政府・自民党の動きを報道した上で、意見をかぶせている。一方的に自分の意見を述べているわけではない。それがだめだと言うのなら、報道番組が無色透明なつまらないものになってしまう。

     「バランス」といっても客観的な基準を設けるのも難しく、キャスターの個人差が出るのは当然。公平を求め過ぎれば、キャスターの選び方を巡って萎縮や過剰反応が起きる恐れもある。米国では希少な電波を独占的に使う放送事業者に、政治的中立、公正な放送を課す原則があったが、廃止された。メディアの数が増えたことに加え、争点のある話題の放送を控える局が増えたことが廃止の理由に挙げられている。

    厳密な「公平性」は時代に逆行 音好宏・上智大教授(メディア論)

     米国ではかつて「公共的に重要な争点の放送には適正な時間を充てること、一方の見解だけが放送された時は対立する見解に対して放送の適正な機会を与えること」とする公正原則を放送事業者に求めていた。電波は希少で、放送は社会的影響力も強いから、いろいろな考えを提供できるようにすべきだという考えにのっとったものだった。しかし、米国内でケーブルテレビが普及し、多チャンネル化が進む中で、公正原則は撤廃された。

     一つの番組内でバランスを取らせるより、縛りを緩くすることで多様な意見が出るようにする方が有用だという考え方だ。日本はなお、地上波の影響力が比較的強いが、それでもインターネットも含めて多メディア化してきていると言える。総務相の国会答弁にあるように、これまでも特定の番組内で対立する意見の提示に厳密なバランスを求めてこなかったし、今時、公正原則のような考え方を持ち出すのは時代に逆行する主張だろう。政治的公平性の厳密さを大事にするのは、選挙報道などに限るべきだ。


    キャスター「安保法案反対」問題視

     意見広告は14日に産経新聞、15日に読売新聞に掲載された。広告を出したのは「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」という団体だ。

     安保関連法案の参院審議が大詰めを迎えていた9月16日、TBSテレビの報道番組「NEWS23」で、アンカーを務める岸井成格(しげただ)氏(毎日新聞特別編集委員)が「メディアとしても廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだと私は思います」と発言した。

     意見広告はこの発言について、放送法4条が放送事業者に対し「政治的に公平であること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と規定していることを根拠にして、「重大な違反行為」と主張した。

     さらに、この規定について2007年の参院総務委員会で当時の増田寛也総務相が「一つの番組ではなく当該放送事業者の番組全体を見て判断することが必要」と答弁したことにも触れ、「総務大臣見解が不適切だ」と批判した。

     意見広告は「一般視聴者は、ある一局の報道番組全体を見ることはできない。一つの報道番組内で公平性や多様な意見の紹介に配慮しようと努めるのは、放送事業者の当然の責務だ」と主張している。

     この会の代表呼びかけ人である作曲家のすぎやまこういち氏は26日に記者会見し、報道番組について「片方の意見のみに偏った報道姿勢が非常に目立つ」と批判した。同日付で岸井氏、TBS、総務相に公開質問状を送ったことも明らかにした。

     TBS広報部は意見広告について「従来、番組にはさまざまな意見が、さまざまな形で寄せられており、意見広告もその中の一つと考えている」とコメントした。

    政府も従来「全番組で判断」

     放送行政を14年間担当した金沢薫・元総務事務次官は放送法4条について、著書「放送法逐条解説」の2012年改訂版で「放送事業者の自覚と自律において自主的に規制されるべきもの」と書いた。

     違反した場合に放送局の運用停止などをする要件として、(1)違反が明らか(2)放送が公益を害し、将来に向け阻止する必要がある(3)同様の事態を繰り返し、再発防止の措置が十分でない−−の三つを挙げ、「適用は、第一義的には自主規制によるものであることを念頭に置き、厳格に行う必要がある」としている。

     4条の「政治的公平」規定については「1条の不偏不党の保障を具体化したものだ。放送は特別な社会的影響力があるので、積極的に、政治的に公平な放送を意図して放送することが公共の福祉に資することになる、との考えからだ。一つの番組における政治的な公平ではなく(その局の)番組全体として判断されるべきもの」と解説している。

     これについて、高市早苗総務相は27日、閣議後の記者会見で「一つの番組というより、放送事業者の番組全体を見て(政治的な偏りがないかを)判断するという、これまでの(政府の)見解がある」と述べた。その上で「今後検討すべき課題だとなってくれば『分かりやすい判断』ということも考えてもいいのではないか。ただ、個別の番組で細かく判断する基準作りは難しい」と語った。


    放送法 関係条文

    第1条(目的)

     この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。

    一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。

    二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。

    三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。

    第3条(放送番組編集の自由)

     放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。

    第4条(国内放送等の放送番組の編集等)

     放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。

    一 公安及び善良な風俗を害しないこと。

    二 政治的に公平であること。

    三 報道は事実をまげないですること。

    四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

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