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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『植物は〈知性〉をもっている』『ラオスにいったい…』ほか

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そんなにすごい存在だったとは

◆『植物は〈知性〉をもっている』ステファノ・マンクーゾ、アレッサンドラ・ヴィオラ/著(NHK出版/税抜き1800円)

 今朝のみそ汁の具はタマネギ、あるいはキャベツ。妻の誕生日に何の花を贈ろう? 人間は植物に囲まれて、うまく利用することで暮らしている。つまり下位に置く。イヌ、ネコよりさらに下。

 ところが、『植物は〈知性〉をもっている』と言い張る本が出た。副題が「20の感覚で思考する生命システム」。著者はステファノ・マンクーゾとアレッサンドラ・ヴィオラ(久保耕司訳)。「動かない」「感覚をもたない」というレッテルで、植物を見損なうことは、これを読んだ後はできなくなるに違いない。

 最新科学で、植物はコミュニケーション能力を有し、眠り、記憶し、判断さえする。これを「知性」と呼ばずに何とするか。下等と思われる極小の単細胞生物であるゾウリムシは、光に向かって移動し、光合成を成す。その進化を遂げた姿は「エレガント」だとさえ著者たちは言う。

 論証は緻密で鮮やか。人間は屈伏せざるをえない。しかし、それはさわやかな屈伏なのだ。

◆『ラオスにいったい何があるというんですか?』村上春樹・著(文藝春秋/税抜き1650円)

 村上春樹の紀行文集『ラオスにいったい何があるというんですか?』という不思議なタイトルは、こうしてついた。日本からラオスへ、ハノイを中継地に向かう際、ベトナム人に不思議そうにそう聞かれたのだ。村上は考える。その「何か」を探すために旅に出るのだ。敬愛する映画監督カウリスマキを訪ねてフィンランド、そして『ノルウェイの森』を書いたギリシャへ。熊本の小さな個人書店に突然現れるなど、よく見聞きし、感じる旅の記録。

◆『仕事のエッセンス』西きょうじ・著(毎日新聞出版/税抜き1350円)

 なぜあなたは働くのか? お金に不自由なければ、働かないのか? 西きょうじ『仕事のエッセンス』は、いま一度、労働の意味を問う。日常化し習慣化され、生活のためとして就いた仕事。その本質的な意味を問い、また労働の現実を見つめ、多様な働き方が可能な未来について、著者は読者に考えさせる。変革の時代、多種な具体例を通して、社会とつながるための、より積極的な意味として「仕事」がある。就活中の若者にぜひ読んでもらいたい。

◆『ウォーク・イン・クローゼット』綿矢りさ・著(講談社/税抜き1400円)

 綿矢りさの新作『ウォーク・イン・クローゼット』は、中編2編を収録する。標題作は、28歳で「ガーリーで清楚(せいそ)なモテファッション」に身を包むOLの私と、小部屋一つがクローゼットという人気タレントのファッション談話に、新進陶芸家、女ストーカーが加わって、いかにも現代的な物語が進行していく。「働いて手に入れた服に囲まれてると、いままでの頑張った時間がマボロシ」でなくなる。この感覚に、痛々しくて切実な今がある。

◆『東京大学「80年代地下文化論」講義 決定版』宮沢章夫・著(河出書房新社/税抜き2500円)

 宮沢章夫は、YMOから岡崎京子やセゾン文化まで、1980年代サブカルチャーを2005年に東京大学で全13回講義した。その記録に補講を加えたのが『東京大学「80年代地下文化論」講義 決定版』。「ヒップ」でもなく「クール」でもない。「かっこいい」としか言いようがない概念・美学が、バブルを背景にこの時期、展開されていた。80年代を象徴する「新人類」と「おたく」。しかしそれらの規定に縛られず、自由に柔軟に語る著者は「かっこいい」。

◆『味なメニュー』平松洋子・著(幻冬舎/税抜き1500円)

 全部食べるわけではないのに、眺めているだけでなぜかうれしくなる。平松洋子は、そんな『味なメニュー』を、「ずっと読みたかった本を手にしたときの、わくわくする気持ち」にたとえる。だから、ついつい端から端まで目で追って読破してしまうのだ。「煮込み」とあれば、「口のほうが先に動いて注文してしまう」。「野菜だけの強力ジュース ハード生野菜」なんて書かれたら、飲まずにはいられない。言葉が喚起するおいしさが詰まった一冊。

◆『虫樹音楽集(ちゅうじゅおんがくしゅう)』奥泉光・著(集英社文庫/税抜き640円)

 奥泉光『虫樹音楽集(ちゅうじゅおんがくしゅう)』は、ジャズとカフカを融合させた野心的連作短編集。ナベサダならぬ「イモナベ」は、1970年代に登場した伝説のサックス奏者。彼は、のちに小説家となる私に、カフカ『変身』は『変態』と訳すべきと告げた。大学時代に虫とセッションしたと発言する彼は、ステージで全裸となり、物議をかもし姿を消す。次に私が河川敷で見た、まさに「変態」を見せるイモナベを描く「川辺のザムザ」ほか、8編を収録し、読者を戦慄(せんりつ)させる。

◆『石垣りん詩集』伊藤比呂美編(岩波文庫/税抜き700円)

 生涯、独身のまま銀行に奉職し、詩を書き続けた詩人の仕事として、未発表を含め120編を集めるのが、伊藤比呂美編『石垣りん詩集』。「私は働く/これは隷属ではなくて、愛だ/これだけが自分の持つ/不変のプライドである。」(「天馬の族」)。「私は私をほぐしはじめる/おさない者に/煮魚の身を与える手つきで」(「えしゃく」)など、生活実感の上に立つ、力強いリズムで言葉が刻まれ、今こそ強く訴えかける。2004年に84歳で死去。

◆『「東京電力」研究 排除の系譜』斎藤貴男・著(角川文庫/税抜き1000円)

 『「東京電力」研究 排除の系譜』は、斎藤貴男がジャーナリスト人生を懸けて書きあげた。原発事故以後、数々の不手際により名門の座から失墜した東京電力。あれから5年、いまだ収束を見ない。著者はこじれた原発問題を、一企業に的を絞り、徹底取材の上、真相を切り開く。事故発生当日、トップの動向を探り、安全神話のあまりの底の浅さを指弾する。驕慢(きようまん)と思想統制が生んだ無責任体制は驚くべきものだ。解説・池上彰。

◆『市川崑と「犬神家の一族」』春日太一・著(新潮新書/税抜き720円)

 角川文庫の販促のため企画された横溝正史原作の映画が、なぜ名作になりえたか。春日太一『市川崑と「犬神家の一族」』は、その謎に迫る。おどろおどろしい陰惨な原作を、みごとスタイリッシュな「知的ミステリー」に仕立てた監督の手腕を、著者は存分に解析していく。主演の石坂浩二のナレーション技術の生かし方、加藤武ほかコメディーリリーフの起用の巧(うま)さ、坂口良子が登場すると何かが起きるなど、指摘と視点が新しく秀逸である。

◆『23区格差』池田利道・著(中公新書ラクレ/税抜き880円)

 足立区の方、怒ってはいけませんよ。港区の所得水準が904万円に対し、323万円が足立区だ。池田利道『23区格差』は、豊富なデータから東京23区を格付けし、通信簿をつける。しかし、収入差だけで見るのは早計。子育て支援の手厚い区、病気になっても心強い区、災害時にも安心・安全な区など、個別のニーズを考えて、初めてその区の特色、暮らしやすさがわかる。その「格差」こそ、東京という大都市のパワーの源だと、著者は言うのだ。

※3カ月以内に発行された新刊本を扱っています

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おかざき・たけし

 1957年生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。『上京する文學』をはじめ『読書の腕前』など著書多数

<サンデー毎日 2015年12月20日号より>

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