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岡崎 武志・評『つかこうへい正伝…』『下町ロケット2 ガウディ計画』ほか

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才能も魅力も規格外の人だった

◆『つかこうへい正伝1968−1982』長谷川康夫・著(新潮社/税抜き3000円)

 なんというタイミング。本書を読み終えた日に、舞台「熱海殺人事件」が33年ぶりに、風間杜夫、平田満というコンビで復活すると報道があった。言うまでもなく、つかこうへいの代表作だ。

 長谷川康夫『つかこうへい正伝1968−1982』は、「演劇の枠を飛び越えて、70年代、80年代の若者たちを惹(ひ)きつけ、その文化を象徴する存在」だった、つかこうへいの評伝。著者は、学生時代につかと知り合い、最盛期につか作品に出演した。絶好の語り部だ。

 本書では、風間、平田、根岸季衣(としえ)など、つか芝居のスターたちに取材し、当時の貴重なチラシなど資料も開陳しながら、希代の演出家を浮き彫りにしていく。初対面で、著者がパチンコで取ったたばこを巻き上げるなど、つかは最初から「すごい奴(やつ)」だった。

 有名な口立てによるセリフの伝授と狂気じみた演出は「何が飛び出すかわからない危うさやダイナミズム」を備えていた。「愛」にあふれた克明な評伝で、つかこうへいがここに甦(よみがえ)った。

◆『下町ロケット2 ガウディ計画』池井戸潤・著(小学館/税抜き1500円)

 『下町ロケット2 ガウディ計画』は、池井戸潤の直木賞受賞作の続編。すでに今秋テレビドラマ化され放映中という話題作だ。東京・大田区の下町にある中小の精密機械製造業「佃(つくだ)製作所」が舞台。ロケット開発を巡る、大手やライバルとの熾烈(しれつ)な攻防が描かれている。前作から5年、本作では、ロケットから「人工心臓」にテーマが変わる。娘を心臓病で失った男の思いが籠もる「ガウディ計画」。佃航平率いる、佃製作所の新たな挑戦が始まった。

◆『美麗島紀行』乃南アサ・著(集英社/税抜き1700円)

 日本統治時代を含む長年の植民地支配を経て、複雑かつ多面性を持つ島・台湾。「台湾とは何か」。その答えを求めて、乃南アサが何度も訪れて書いたのが『美麗島紀行』だ。太平洋戦争時、台湾の空に散り、今は「飛虎(ひこ)将軍」として崇(あが)められる日本人航空兵など、著者は歴史の間に見え隠れする、知られざる真実にも触れる。台中で聴いた「蘇州(そしゆう)夜曲」や「青い山脈」。この島を知ることで、日本を知り、「世界にとってのアジア」が見えてくる。

◆『師走の扶持』澤田瞳子・著(徳間書店/税抜き1600円)

  直木賞候補の長編『若冲』が、話題となった澤田瞳子(とうこ)。『師走(しわす)の扶持(ふち)』は、「京都鷹ヶ峰御薬園日録」を副題に、薬草を扱う女性・真葛の姿を描く第2作。若い女子と仲間に侮られた真葛も、採薬に対する真摯(しんし)な態度に、周囲の目が変わる。本作でも幼い娘の妊娠、仕入れの旅に出ないと言い出す薬種屋の主人など、さまざまな話が飛び出す。表題作では、冬枯れの薬草園に焚(た)き火の煙、煤(すす)払いと、静かに暮れる師走の京の風景がたっぷり描かれ、楽しませる。

◆『日本の銭湯ガイド How to Take a Japanese Bath』鈴木一功・文/丸尾末広・絵(IBCパブリッシング/税抜き1800円)

来日する外国人観光客は、ジャパンの珍しい風習を「クール」と言って喜ぶ。それならばと書かれたのが、鈴木一功の文・丸尾末広の絵による『日本の銭湯ガイド How to Take a Japanese Bath』。湯船に入る前の準備から、入浴後のリラックスまで、その動作と心得をこと細かに日英対訳文と大きなイラストで伝える。「入浴するのはいつでも構わない。朝であろうが、夜寝る前であろうが」と真面目に語られるので、日本人が読むと笑える。

◆『消えた修道士』ピーター・トレメイン/著(創元推理文庫/上下各税抜き1060円)

 ピーター・トレメイン(甲斐萬里江訳)『消えた修道士』は、修道女フィデルマを主人公とする長編シリーズの第7弾。7世紀半ばのアイルランド、ヒロインはモアン国王の妹、つまり王女であり、修道女、法律家でもある。和平交渉のためモアンを訪れた大族長に、暗殺の矢が放たれた。命は助かったが、2国は険悪に。モアン王国の潔白を証明するため、異色修道女フィデルマは、矢の出所と思われる村へ。難事件に立ち向かう推理の結末は?

◆『駅の社会史』原田勝正・著(中公文庫/税抜き800円)

 漱石『三四郎』の主人公は、熊本から上京。名古屋終着の列車を途中下車、翌朝、東京行きに乗り込む。『三四郎』連載中、陸軍大演習終了後に名古屋駅に降り立ったのが乃木将軍であった。原田勝正『駅の社会史』は、近代文学や歴史上の重要な結節点となった「駅」の姿を、鉄道史とからめて考察する。「勝負に打って出る玄関の駅」と、東京の登竜戦に旅立つため升田幸三は大阪駅に。敗戦の日、8時間待たされた一色次郎など興味は尽きない。

◆『蛭子の論語』蛭子能収・著(角川新書/税抜き800円)

 他人の目を気にしない自由人として、いまやマスコミで引っ張りだこの蛭子能収(えびすよしかず)。『蛭子の論語』は、タイトルそのまま、蛭子に『論語』を読ませようという大胆な企画だ。「知らざるを知らずと為す、是知るなり」は、「知ったかぶりで話したとしても、それをちゃんとツッコんでくれる人がいるならば、それはそれでいい」と解釈。「朝に道を聞かば……」には、「勉強ができても死んでしまったら元も子もない」と反撃。いかにものエビスワールド。

◆『解決! 空き家問題』中川寛子・著(ちくま新書/税抜き820円)

 新築家屋がバンバン建つ一方で、お化け屋敷と化した空き家が増えている。ここに現代が抱える意外な落とし穴があった。中川寛子『解決! 空き家問題』は、関係ないと思っているあなたにも一読を勧める。祖父や父親の世代に造られた家が老朽化したまま放置。その土地の税金を子や孫が死ぬまで払い続ける。解体するにも100万〜200万円の費用が! 著者は、豊富な具体例を見ながら、先送りしてきた「負」の財産を直視し、打開案を示す。

◆『天下統一』黒嶋敏・著(講談社現代新書/税抜き800円)

  乱世となった戦国時代に天下を一つにまとめあげた秀吉や家康。黒嶋敏『天下統一』は、2人の「天下人」が引き継いだ史上最大のプロジェクトを、新視点で検証し直す。「統一」ではなく「一統」とした秀吉の胸の内は何だったのか。諸国大名を束ねるには意外に時間がかかり、権威を見せつつ、休みなく政治的営みが続いたのだと著者は見る。天下人もつらいよ。家康と秀吉の政治手法を比較し、両者に引き継がれた「天下統一」の神髄を鮮やかに説く。

◆『115歳が見えてくる “ちょい足し”健康法』今津嘉宏・著(ワニブックス「PLUS」新書/税抜き830円)

「健康のまま寿命を全うできるかどうか」は、長寿の時代を生きるわれわれにとって喫緊の課題である。だからといって、日常生活を大きく変えることには抵抗がある。そこで今津嘉宏が提唱するのが『115歳が見えてくる “ちょい足し”健康法』だ。朝食には吉野家の焼魚定食がおすすめ、リンガーハットの野菜たっぷりちゃんぽんで野菜不足を補うなど、すぐにもできそう。ちなみに、口腔内ケアは肺炎、認知症予防にも役立つとのこと。

※3カ月以内に発行された新刊本を扱っています

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おかざき・たけし

 1957年生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。『上京する文學』をはじめ『読書の腕前』など著書多数

<サンデー毎日 2015年12月27日号より>

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