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<そこが聞きたい>岐路に立つ「もんじゅ」 阿部信泰氏

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阿部信泰氏

将来見据え、政治決断を 内閣府原子力委員会委員・阿部信泰氏

 大量の機器点検漏れなど不祥事が相次ぐ高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)=1=について、文部科学省が有識者会合で新しい運営組織の検討を始める。内閣府原子力委員会の阿部信泰委員(70)に、もんじゅや国の核燃料サイクル政策=2=について聞いた。【聞き手・中西拓司】

−−原子力規制委員会は機器点検漏れなどの不祥事を受け、現在の日本原子力研究開発機構に代わる新しい運営組織を示すよう文科省に勧告しました。現状をどう見ますか。

 高速増殖炉は、将来のエネルギー源の確保に向けて、使った以上のプルトニウムを得られるメリットがあります。しかし、現時点でそれにどれだけの意味があるのかを十分考える必要があります。つまり、もんじゅを始めた当時は、ウランは非常に限られた資源だと考えられていました。しかし、現在はかなりの量が世界中に存在することが分かり、少なくとも今世紀中は確保できるとも言われます。それなら、プルトニウムを一生懸命、頑張って生産する必要があるのか、ということがクエスチョンマーク(疑問符)です。

 一方、もんじゅを高速増殖炉の研究ではなく、原発から出る高レベル放射性廃棄物の減容化や、半減期の低減などの研究に役立てるべきだとの意見もありますが、工学的にできるということと、経済的に意味があるかどうかは別問題です。経済的に妥当か検討する必要があります。

−−規制委は来年夏ごろまでに新組織を示せない場合、もんじゅを抜本的に見直すことも求めています。

 どのような組織が適切か、文科省からいい知恵が出ることを期待しています。フランスは「ASTRID」(核のごみを減らしながら発電できる新型の高速炉計画)を進めており、日本政府はこれに技術協力することで合意しています。こうした高速炉技術が日本の将来に必要なら、フランスと協力することも一つの可能性としてあります。一方、もんじゅが日本の将来に本当に必要なら、死にものぐるいで続けた方が良いのかもしれないが、そうでもなく他の方法が良いということなら、よく比較検討して考えるべきです。

−−もんじゅには、既に1兆円超の国費が投入され、やめるにやめられない状態になっています。

 「初志貫徹」で、岩にしがみついても最後までやり通すことが日本人の美徳と言われます。一般的にはそうかもしれませんが、本当にコストを払う意味があるのかをよく考える必要があります。もんじゅを動かすことを使命としてきた現場の原子力機構職員にとっては大きなショックだと思いますが、ある段階で全体のバランスを考えて、やめることも一つの判断です。日本のエネルギー政策で一番いい選択肢は何なのか、政治家など上に立つ人の責任で結論を出さなくてはならないと思います。

−−日本は国内外に47・8トンのプルトニウムを保有しています。核燃料サイクル政策が動かず、利用目的のないプルトニウムが増えれば、「核兵器に転用するのではないか」との国際的な批判も出かねません。

 日本は国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れており、米国は日本が核武装するとは考えていないと思いますが、世界の中には、日本が核兵器を作るのではないかと警戒する国もあります。もんじゅが動かない今、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を原発で使う「プルサーマル計画」や、全炉心にMOX燃料の使用が可能なJパワー(電源開発)の大間原発で、プルトニウムを使うことになっています。

 しかし、規制委の安全審査は長期化しており、何基がいつ動くのかという見通しはだれにも分かりません。プルトニウムの消費は今後何年もかかる話で、すぐに結論が出る話ではないでしょう。

−−もんじゅを含め、今後の原子力政策はどうあるべきですか。

 原子力委員会は、原子力利用についての方針「基本的考え方」の内容を検討しており、少なくとも21世紀後半まで見据えた方向性を打ち出したいと考えています。私自身は(太陽で起きているのと同じ現象を利用し、少ない燃料から多くのエネルギーを取り出す)核融合エネルギーを実用化するのが一番いいと思います。それが今世紀中に実現できるかは分かりませんが、50年前に生命科学や情報産業などといった現在の科学技術の進歩を予想した人はだれもいません。それなら、将来可能性がある分野に対して、今の段階でいろいろ手を打っておくべきです。

 もちろん、経済が停滞し、社会福祉などにお金が必要な今、原子力に際限なくお金を使えるわけではありません。限られた資源を将来に役立つよう使うにはどうすればいいか、国全体で考える必要があります。

聞いて一言

 もんじゅの名前は「文殊菩薩(もんじゅぼさつ)」に由来するが、中国の「満州」もこの「文殊」から派生したという。日本は日露戦争の勝利で旧満州を手に入れたが、その維持にこだわるあまり、泥沼の戦争にはまりこんだ。戦争とエネルギー政策は単純比較できないが、「一度始めた政策は変えられない」という官僚の思考回路は変わっていないようだ。原子力委員会は国の原子力政策の「司令塔」と言われた。今こそ、国のエネルギー政策を主導し、もんじゅに廃炉の「レッドカード」を突きつけてはどうか。


 ■ことば

1 もんじゅ

 使った以上の燃料を生み出すため「夢の原子炉」と言われた。核分裂で発生した熱を取り出すため液体ナトリウムを使い、水を使う一般の原発と異なる。ナトリウムは空気や水に触れると爆発する恐れがあり、高度な技術が必要。2012年に発覚した機器点検漏れのため、規制委から運転禁止命令を受けている。

2 核燃料サイクル政策

 原発の使用済み核燃料を再処理し、取り出したプルトニウムやウランを再び原発の燃料として利用する国の計画。もんじゅは実用化のめどが立たないため、現在ではプルトニウムとウランを混ぜた混合酸化物燃料を通常の原発で使う「プルサーマル」が主流になっている。


 ■人物略歴

あべ・のぶやす

 1945年秋田県生まれ。東京大法学部在学中に外交官試験に合格。外務省入省後、軍縮担当の国連事務次長などを歴任。日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター所長を務め、昨年から現職。

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