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<坂村健の目>ベビースキャン

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 11月下旬の英国のテレビ番組「BBC WORLD」で福島県の子どもたちの内部被ばくを測定できるホールボディー(全身)カウンター「ベビースキャン」の測定結果が紹介された。3台が福島の病院に設置され、約2700人の小児、乳幼児を測定した結果、全員から放射性セシウムが検出されなかったという。

 この装置は東京大学大学院の早野龍五教授(原子物理学)が中心となって、海外製のホールボディーカウンターを改造したもの。うつぶせ姿勢で、不安をあたえずに4分間測定できる。

 これにより大人用より5倍以上の感度で測定できるようにした。子どもは体が小さく、また放射性セシウムの自然排出が大人に比べ著しく早いため、精度を上げないと意味のあるデータがとれなかったからだ。

 実は、一緒に生活する母親のデータから高い精度で子供のデータも推定できる。不検出の結果も予想されており「科学的には不必要」とも言われていた。しかし直接「測れない」ということを「わからないから怖い」と言い換える人たちがいる。いわゆる「悪魔の証明」に対抗するには、全ての場合について地道にデータを積み上げるしかない。

 早野先生が偉いのは、母親たちの不安を「科学的に必要ない」と切り捨てず、測れないデータを一つでもなくすために地道に努力していることだ。日本各地でいつも食べているものを1食分余計に作って、定期的に放射線量を測る「陰膳検査」は、東日本大震災前に事業仕分けで止まっていた。それを、給食をベースに復活させるため努力された。福島高校が中心となり、日本、フランス、ポーランド、ベラルーシの高校生による外部被ばくの測定と比較を行うプロジェクトの指導もしている。

 さらに重要なのは、皆が判断するためにデータを測り、単に公開するだけという姿勢を貫いていることだ。陰膳検査でも「やって出たら困る」と恐れる役人を押し切って、どんなデータでも出すことが大事と、国に認めさせた。測れなかったデータを測るため装置の工夫をし、結果を脚色なく公開するというのは、実験物理の基本だが、科学者も人の子、予断を排除するのは難しい。しかし、この問題では公正さの担保こそ「悪魔の証明」を求める人たちに対峙(たいじ)する科学の側の唯一の武器。だからこそ予断のないデータ公開の姿勢を貫いている。

 しかし、発表姿勢としては弱いのか、ベビースキャンの結果も日本では10月初めに発表されたのに、残念なことに取り上げた日本メディアは非常に少なかった。事態がわからないときに、非常ベルを鳴らすのはマスコミの立派な役割。しかし、状況が見えてきたら解除のアナウンスを同じボリュームで流すべきだ。大震災から5年近く。早野先生を含む多くの方々の地道な努力で、データは着実に積み上がっている。(東大教授)=次回は来年1月21日

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