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社説

戦後70年が終わる 過去と穏やかな対話を

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 惨禍を極めた大戦の終結から70年という節目の年が間もなく暮れる。

     空前の数の人命を奪ったあの戦争はなぜ引き起こされたのか。戦争中に日本はどう振る舞ったのか。

     この1年、歴史の評価をめぐってさまざまな議論が交わされた。その多くで歴史はナショナリズムというよろいをまとわされ続けた。

     年初に私たちが最も懸念したのは、歴史認識の違いによって東アジアが際限のない「歴史戦争」にのめり込んでいく事態だった。

     実際に日中韓では摩擦が絶えなかった。それでも年末に日韓がたどり着いた合意は、対立を乗り越えようとする両国の強い意思を示した。負の連鎖を防ぐ上で重要な一歩だ。

    日米離間を図った中国

     「さまざまな面で先の戦争のことを考えて過ごした1年だったように思います」。天皇陛下は誕生日にあたってそう振り返られた。南太平洋パラオへの慰霊の旅や、昭和天皇の聖断が下された御文庫(おぶんこ)付属室の公開など、例年にも増して戦争の記憶と向き合ってこられた陛下の思いは、国民にも伝わったことだろう。

     過去との対話は本来、冷静かつ穏やかな態度でなされるべきものだ。たけだけしく歴史を語れば、もともと異なる国家のアイデンティティーを闘争へと駆り立ててしまう。

     1年を通して歴史問題が強い政治性を帯びたのは、国際的な政治秩序の変動期と戦後史の節目が重なったためだ。軍事・経済両面で驚異的に膨張を続ける中国と、安倍晋三首相の再登場以来進んだ日本政治の右傾化が相互に刺激し合った。

     とりわけ中国による歴史の政治利用は、周到かつ執拗(しつよう)だった。

     2月の段階で中国は、戦後70年にちなむ国連安全保障理事会の公開討論を提案した。そして「いまだに侵略の歴史をごまかそうとする者がいる」と日本をけん制した。

     5月の核拡散防止条約再検討会議では、世界の指導者に被爆地への訪問を促す日本提出の決議案を、中国が「日本が第二次大戦の加害者ではなく、被害者であるように歴史をゆがめる」との理由ではねつけた。

     9月には大々的に抗日戦勝記念式典を催した。10月には南京虐殺の資料をユネスコの世界記憶遺産に登録し、「国際社会公認の歴史的事実になった」と胸を張った。

     一連の中国のプロパガンダには、「戦勝国」中心の戦後秩序を強調することで、「侵略」と認めることに消極的な安倍政権と米韓両国とを離間しようとする狙いがあった。

     6月22日に国交正常化50年の節目を迎えた日韓関係も、和解の糸口を見つけられずに停滞が続いた。7月に「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録された際には、朝鮮半島出身者の強制使役をめぐって双方が火花を散らせた。

     日本側の焦点は、安倍首相が8月に出した戦後70年談話だった。首相は戦後50年の村山富市首相談話に一貫して否定的な見解を示してきたため、戦前の日本を美化する「歴史修正主義」の談話になるのではないかと国際的な注目を集めた。

     談話の作成に向けて首相は2月に有識者会議を発足させた。会議の報告書は1931年の満州事変以降の大陸政策を「侵略」と認定した。ただし、実際の安倍談話では侵略の主体は明示されず、村山談話のキーワードを並べるにとどまった。

    過ち直視する勇気こそ

     首相は11月の講演で「今や談話が話題に上ることはほとんどない。多くの国民が共有できる談話を作成することができた」と自賛した。

     そうだろうか。安倍談話の特徴は新たな摩擦を避けようとする防御的な表現にあった。中韓両国が抑制的に反応したのは、談話の内容ではなく、経済の減速に伴う中国の対外政策変更や、日韓の不和を懸念する米国の働きかけなどが絡んでいる。

     明治中期に渡米し、米エール大で日本人初の教授になった歴史学者の朝河貫一(あさかわかんいち)は、日露戦争後の1909年に「日本の禍機(かき)」を出版した。

     中国の「領土保全」と列国の「機会均等」を掲げて日露戦争を戦ったはずの日本が、戦勝後はロシア同様に南満州を「私曲(しきょく)」し始めたことに国際世論が険しい目を向けていると母国に警鐘を鳴らした著作だ。

     「戦前世界が露国に対して有したる悪感は、今や変じて日本に対する悪感となり、当時日本に対したる同情は、今や転じて支那(しな)に対する同情となりたり」

     朝河は、日本がアジアで背信を続ければ、いずれは日米が戦うとまで予言していた。日本の対中侵略は満州事変で突然始まったわけではなく、そのはるか前に素地が出来上がっていたことを知る必要がある。

     節目の年を過ぎても歴史問題はくすぶり続けるだろう。中国が対日政策を修正したとしても、歴史カードを手放すとは考えられない。日本の外交当局は中国が旧日本軍731部隊の世界遺産登録を目指すのではないかと警戒している。

     日本が過去の過ちに謙虚であることは「自虐」でも何でもない。むしろ、勇気を持って直視する姿勢こそが日本の道義性を高め、国際社会での立場を強くする。その先に東アジアの和解があると確信する。

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