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<社説を読み解く>夫婦の姓=論説委員・伊藤正志

再婚禁止期間について違憲とする判決を出した最高裁大法廷=東京都千代田区で2015年12月16日午後2時58分、喜屋武真之介撮影

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「個人の人格」どう尊重するか ボールは国会に 国民の声を聴き議論必要

 結婚した夫婦は、夫か妻のどちらかの姓を称するとした民法の規定は、憲法に違反しているのか。

 最高裁の結論は「合憲」だった。

 事実婚の夫婦ら5人が2011年に提訴した。原告らは、結婚によって姓の変更を強いられるのは人格権侵害であり、憲法13条が保障する「個人の尊重」に反すると主張した。

 また、現実には約96%の夫婦が夫の姓になっており、実質的な性差別といえ、憲法14条の「法の下の平等」にも反すると訴えた。

 判決を前に、各紙は企画や特集など精力的に紙面展開した。事実婚の当事者や結婚で姓を変更し苦労する人たちの声、一方で家族が同姓であることを大切だと考える人たちの意見を多角的に報じた。民法の規定をめぐり、近年ではまれなほど最高裁の判断が注目された。

 安倍政権は、すべての女性が輝く社会づくりを重要政策の一つに掲げる。毎日新聞も、男女がともに働く社会の現状を踏まえ、夫婦の姓のあり方を柔軟かつ多角的にとらえるべきだと主張してきた。

古くて新しいテーマ

 法相の諮問機関である法制審議会は1996年、選択的夫婦別姓制度の導入を答申している。毎日新聞は93年11月に「夫婦別姓はなぜいけないか」との見出しで社説を掲載するなど、結婚と改姓の問題を繰り返し社説で取り上げてきた。「古くて新しい」テーマといえる。

 過去の社説の主張をまとめると、次のようになる。

 どちらかの姓を名乗るといっても、ほとんど女性が改姓を強いられる。屈辱感を抱いたり、不便を感じたりする人は少なくない。女性差別という点で問題だ。個人の人格の尊重が基本であり、国民の意見を聞きながら、政府は選択的夫婦別姓制度導入を前向きに進めるべきだ−−。

 こういった考え方の枠組みを最高裁判決を受けた社説で変える必要があるのか。「変える必要はない」というのが論説室の結論だった。

 ただし、このテーマへの考え方は人によってさまざまだ。

 論説室の会議でも「同一姓の強制は社会の障害になっており、時代に逆行している」と、社会全体の活力という面から問題視する意見があった。一方、「名字が本人のアイデンティティーと分かちがたいほど結びついていると過剰にとらえるのはいかがなものか」との指摘もあった。

 法制審の答申を20年近くたなざらしにしてきた国会の姿勢が最大の問題だとの声が強かった。判決後の12月17日付の社説では「判決が、国会の現状にお墨付きを与えたと解すべきではない」と冒頭でくぎを刺した。

最高裁、どう判断したか

 最高裁は「夫婦の同姓は、社会に定着しており、家族の呼称を一つに定めることには合理性がある」との考え方を示した。

 一方で、「改姓によってアイデンティティーの喪失感を抱くなどの不利益を受ける場合があることは否定できない。妻となる女性が不利益を受ける場合が多いことが推認できる」としつつ、「通称使用が広まることで不利益は一定程度緩和される」との論法で違憲性を否定した。

 旧姓使用を認める職場が増えているのは確かだ。だが、国家資格が必要な職業でも、医師など旧姓使用が認められない資格は約半数ある。民間調査機関「労務行政研究所」の調査では、上場企業で旧姓使用を認めているのは約65%だ。中小企業では認められないことが多い。二つの名前の管理は企業にとっても負担だ。

 そうした実態を踏まえ、最高裁の通称使用の考え方に対し社説では「こうした主張が、特に女性の理解を得られるのかは極めて疑問だ」と指摘した。

 改姓を強要される側の人格権についての最高裁の主張も注目点だった。最高裁は、過去の判例で「氏名は人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する」との見解を示していたからだ。

 今回の判決では、姓が家族の呼称としての意義があることなどを踏まえ、「姓の変更を強制されない自由が、憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない」と結論づけた。この判断についても社説で「残念だ」と書いた。

国際社会は別姓認める

 日本人の父と外国籍の母の婚外子に、出生後の父の認知があっても日本国籍を認めない国籍法の規定がかつてあった。最高裁は2008年、この規定を違憲とした。また、婚外子の遺産相続分を、結婚した男女間の子の半分とした民法の規定についても、最高裁は13年、違憲とした。

 二つの司法判断で最高裁が持ち出したのが国際社会の潮流だ。同じような規定が海外では廃止されていることを違憲の理由の一つに挙げた。

 夫婦の同姓を強いる法律の規定はいまや海外ではほとんど見られない。同姓を認めつつ、別姓や結合姓を選択できる国が多い。国連の人権機関も繰り返し、日本政府に規定の廃止を勧告している。

 だが、今回、最高裁の多数意見は、こうした国際社会の動向を判断材料に挙げなかった。これでは二重基準があるかのようだ。

 裁判官出身の泉徳治・元最高裁判事は、「私の最高裁判所論」(日本評論社)で、こう指摘する。「最高裁の合憲・違憲判断は、その判断過程に一定の法則性はない。強いて言えば、影響が限定的な場合は、踏み込んで違憲判断をすることがあるが、影響が全国に及ぶ場合は、途端に謙抑的になる傾向がみられる」

 今回の判決に当てはまるように思えてならない。社説は「国際社会の潮流も見据えて議論してもらいたい」と結んだ。

 各紙の社説の論調は分かれた。朝日、日経、東京は、最高裁判決前の社説で、夫婦別姓を認めない民法の規定に疑問を投げかけており、判決を受けた社説では、毎日同様、国会での今後の一層の議論を促した。

 読売は、「夫婦が同じ姓を名乗るのは、同一の家族であることを示す意味合いがある」との最高裁の判断を「うなずける見解である」とし、国民の意識と歩調を合わせて法制の見直しは検討されるのが望ましいと書いた。産経は「現行制度を崩す必要はない。最高裁の判断は妥当だ」と、あくまで同姓を主張した。

 最高裁判決は「この種の制度は、国会で論ぜられ、判断されるべきだ」と指摘した。国会にボールは投げられた。不作為のまま時間が過ぎてはならない。国民の声を聴き、国会は法律の見直しを検討してほしい。


夫婦同姓問題 社説の見出し

 (いずれも2015年)

毎日 多様性促す憲法判断を(2月20日)

   国会は見直しの議論を(12月17日)

朝日 多様な家族認めるとき(2月20日)

   問われる「憲法の番人」(11月7日)

   時代に合った民法を(12月17日)

読売 司法判断と制度の是非は別だ(12月17日)

日経 夫婦別姓問題を直視したい(2月20日)

   選択的夫婦別姓を前向きに(11月6日)

   「夫婦別姓」の議論に終止符を打つな(12月17日)

産経 家族の意義と「絆」守った(12月17日)

東京 見直しは時代の要請だ(2月20日)

   普遍的な人権の尊重を(11月5日)

   時代に合わせ柔軟に(12月17日)


 「社説を読み解く」は、前月の社説の主なテーマを取り上げ、他紙とも比較しながらより深く解説します。ご意見、ご感想をお寄せください。〒100−8051毎日新聞「オピニオン」係 opinion@mainichi.co.jp

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