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発達障害学生、社会へつなげ 履修登録、リポート、就職……広がる支援

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発達障害のある大学生の就労支援について、活発な議論が行われた公開シンポジウム=東京都日野市の明星大学で 拡大
発達障害のある大学生の就労支援について、活発な議論が行われた公開シンポジウム=東京都日野市の明星大学で

 発達障害を抱える大学生が増えている。授業の履修登録ができない、リポートや卒論が書けない、仲間に溶け込めない、就職できない……。大学では就活も含めた支援の取り組みが始まっている。

教員や家族と連携

 中央大学(東京都八王子市)は2014年度から、臨床心理士の資格を持つ「キャンパス・ソーシャルワーカー」を一部の学部の事務室に配置している。気になった学生に声をかけ、成績や対人関係についてカウンセリング。教員や家族と連携し、サポートする。

 「中途退学の防止が目的の一つです。『授業についていけない』と、退学届を突然持って来る学生がいて、詳しく事情を聴いてみたら発達障害が見られた。本人も周りも気づいていないケースが多い」と、同大文学部の山科満教授は説明する。

 発達障害は、アスペルガー症候群や注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などの総称。脳機能の障害が原因とされる。日本学生支援機構が全国の大学や短大などを対象に行った調査(14年)によると、発達障害の診断を受けた学生は2722人。09年調査と比べ約4.8倍増だ。ただし、中央大で支援した学生の約9割は診断書を持っておらず、実際はもっと多いと見られる。

能力の偏りでつまずき

 なぜつまずくのか。医師でもある山科教授によると、耳で聞いた情報をキープしておくことが苦手な発達障害の人が多い。高校は教科書を暗記し、板書をノートすれば卒業できても、大学では講義を聞きながらポイントを自分でメモしなくてはならないからだ。こうした場合はプリントにして渡してあげるのが有効という。

 能力の偏りがあり、専門科目は優秀だが、電話でのやり取りができないなど、ケースはさまざま。「今の社会はコミュニケーション能力の要求度が高く、劣っている人間はあぶり出される。中退し、引きこもる若者をつくらないためにも支援が急務です」と、山科教授は訴える。

 明星大学(東京都日野市)で昨年12月5日、「発達障害のある大学生の就労支援の現状とこれから」という公開シンポジウムが開かれた。日本LD学会と同大の共催で、学校関係者ら約400人が集まる盛況ぶり。就労支援している企業や事業所、障害者を雇用する特例子会社の関係者らが討議し、情報交換した。

 紹介されたのが、明星大の「スタートプログラム」。発達障害の学生のために独自に開発された支援カリキュラムで、年間30コマ(月3回)、学内や職場のルール、公共マナーなど社会的なスキルを小グループで学ぶ。有料で月2万円。

 約10年にわたりプログラムにかかわってきた同大人文学部の小貫悟教授は「大学への適応だけでなく、社会へつなげるための支援」と説明する。

 プログラムでは日常のよくある場面を設定し、ロールプレーする。「大教室でどこに座るか。ほかの席も空いているのに、女子のすぐ隣に座ってもOK?」。黙って座ってしまう男子学生もいるそうで、なぜダメなのかを一緒に考える。「米国ではどの大学にも発達障害の支援センターがある。教員や職員に少しでも知識やノウハウがあれば、目の前の学生の人生が変わってきます」と小貫教授は話す。

就労支える企業も

 シンポでは発達障害の人の就労を支援する企業「Kaien(カイエン)」(本社・東京都千代田区)も紹介された。大学生・専門学校生のためのプログラム「ガクプロ」を後日、見学した。

 土曜日の午後、30人ほどが集まり、いくつかの課題をこなす。「1人暮らし」についてのフリートークでは、実家暮らしがほとんどの中、ある男子学生が「就職が決まり、4月から1人暮らしになるかも」と話すと、「私には無理」「憧れる」などの声が上がる。相手を理解し、自分を振り返る練習場のようだ。

 就職先としては企業の一般職枠か障害者枠、特例子会社などが選択肢。社長の鈴木慶太さんは「客観的に自分を見ることが不得意で、障害に気づきにくいのが発達障害の特徴。より輝ける職場はどこか、自尊心を傷つけずに着地させてあげることが大事です」と話す。

 今年4月に施行される障害者差別解消法は、国公立大に障害者に対する「合理的配慮」を提供するよう義務づけている。私立大は努力義務。悩む学生が増える中、支援の拡充が求められる。【五十嵐英美】

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