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岡崎 武志・評『東大駒場寮物語』『孫と私の小さな歴史』ほか

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古くて汚くて男臭い自由の城

◆『東大駒場寮物語』松本博文・著(角川書店/税抜き1800円)

 北杜夫『どくとるマンボウ青春記』には、旧制高校の寮生活のバンカラと自由ぶりが活写されている。だが1990年代にも、その気風を残していた場所があった。

 松本博文『東大駒場寮物語』は、93年に入寮、委員長も務めたルポライターの著者が、破天荒ともいえる寮生の生活ぶりを、寮の歴史とともにつづる。下駄、サンダルばきにパジャマ姿でうろつき、マージャンに明け暮れる強者(つわもの)ども。その中には堀江貴文もいた。ほか、小柴昌俊、ムツゴロウ、野田秀樹と多士済々が続々と登場。

 「この古くて汚くて、最高に男臭い東大駒場寮」とホリエモンはかつて評した。「猫よりも怠惰」ながら腐っても東大。その居場所が奪われようとしていた。

 大学側の一方的な廃寮宣言に対し、彼らは裁判で闘う。結果、寮は消えた。自治会で最後を見届けた元寮委員長は、「寮の存在を許さない、学生自治など許さない」流れを、国立大学法人化の中に見いだす。自由の城が奪われた苦い後味をテンダーに描く傑作だ。

◆『孫と私の小さな歴史』佐藤愛子・著(文藝春秋/税抜き1400円)

  カバー写真で、トトロのスーツを着ているのが、佐藤愛子とその孫娘・桃子ちゃん3歳。このコスプレ写真が年賀状に使われた。『孫と私の小さな歴史』は、正月早々、知人の度肝を抜いた大作家と孫娘の年賀状撮影シーンを、秘蔵写真とともに公開し、記録する。カリブの海賊、ドラキュラ、コギャル、どじょうすくい、ついにはメイドカフェとエスカレート。「私が撮りたい写真は、人の意表を突くもので、従って普通ではない」。孫娘の激白もあり。

◆『Oe(おおえ) 60年代の青春』司修・著(白水社/税抜き2600円)

 長年、大江健三郎の著作の装丁をしてきた司修。『Oe(おおえ) 60年代の青春』で、『叫び声』『河馬に噛まれる』という2長編を徹底的に読み抜く。梅毒に脅(おび)える二十歳の「僕」と同居する若いアメリカ人と仲間たちを描く『叫び声』。「犯罪者の想像力」を追求した作品の背後に、小松川事件やアメリカ兵農婦射殺事件など現実が横たわる。あるいは『河馬に噛まれる』と60年安保。同時代の伴走者として、そこに自分の人生を重ねる書き下ろし異色評論。

◆『七世竹本住大夫 私が歩んだ90年』七世 竹本住大夫・著(講談社/税抜き2200円)

 自伝『七世竹本住大夫 私が歩んだ90年』の著者は、2014年文楽界初の文化勲章を受章した名人。大正末期に大阪・堂島に生まれた七世が、抜群の記憶力とリズミカルな大阪ことばで、文楽界のこと、大阪の町について語り尽くす。文楽のみならず、歌舞伎、映画、宝塚、あるいは野球と、モダン都市文化について言及した少年時代の話は貴重だ。また、不器用人間が努力精進を重ね、いかに頂点に到達したかもわかる。若き著者など古い写真も満載だ。

◆『僕は、太陽をのむ』牧野伊三夫・著(港の人/税抜き1200円)

 ユニークな地域誌『雲のうえ』の編集委員、かつ表紙やデザインを手がける画家が牧野伊三夫。木炭によるラフなスケッチの玄妙(げんみよう)なる味わいはファンも多い。『僕は、太陽をのむ』は、各種雑誌に掲載されたエッセーを一冊に集める。季節に身を添わせ、絵を描く日々をつづった春の日録がいい。また、一時期アトリエ兼住居にしていた古民家の思い出、たまねぎを煮て絵の具を作ろうとした試みなど、すべて生活実感に根ざした柔らかい文章、そして絵がある。

◆『がん重粒子線治療のナゾ』川口恭・著(大和出版/税抜き1600円)

 “神の手”に代わる究極の低侵襲治療(帯文)であるにもかかわらず、「否定的な報道」が繰り返され「理不尽な扱いを受けて」きた医療技術。そんな『がん重粒子線治療のナゾ』に踏み込んだのが、医療情報誌の編集発行人である川口恭だ。精密さと強さを併せもつこの技術において、日本は世界をリードしているという。がんの状態にもよるが、入院せず通院で治療が受けられることもあるのがメリット。万が一の備えとして、正しい情報を知っておきたい。

◆『シャッター通りに陽が昇る』広谷鏡子・著(集英社文庫/税抜き560円)

 いま日本国中、どこにでもある疲弊した商店街。広谷鏡子『シャッター通りに陽が昇る』は、香川県の城下町をモデルにその復興物語を小説にした。親が倒れ、彼氏にフラれ、東京から戻ってきた英里子。このどん底アラフォー女子が「あたし、決めた。ここを復興させる」と宣言。怪しい芸術家、お洒落(しやれ)な電器屋、頑固一徹のラーメン店主、クールな市職員女子、左遷された銀行マンなど、個性豊かなメンバーとともに、奇跡を巻き起こす痛快小説。

◆『東京煮込み横丁評判記』坂崎重盛・著(中公文庫/税抜き760円)

 「不良隠居」を自任する現代の粋人・坂崎重盛が、とっておきのいい店をガイドするのが『東京煮込み横丁評判記』だ。銀座、神楽坂から浅草、赤羽、立石と、隠居の足は飲ん兵衛の「奥の細道」へ。店のデータやおすすめはもちろんのこと、居酒屋指南もさりげなく開陳される。常連で固めた店へは「まだ、まるでシラフです」という顔で入る。「微妙な演技力」がビジターには必要、というのだ。勉強になるなあ。巻末には吉田類との対談も収録する。

◆『スター・ウォーズ学』清水節・柴尾英令/著(新潮新書/税抜き700円)

 大ヒット公開中の映画「スター・ウォーズ フォースの覚醒」はシリーズ7作目。『スター・ウォーズ学』は、歴史から世界観、登場人物、そしてルーカスとディズニーの関係まで、一挙に把握できる。1977年に米で公開、1年後に日本公開された「スター・ウォーズ」は、SFブームを作った。著者の清水節(たかし)と柴尾英令(ひでのり)はともに62年生まれの、まさにその世代。熱狂と興奮を、最新の情報に乗せて熱く語る。映画を見る前でも見た人にもおすすめ。

◆『大丈夫か? マイナンバー』西村康稔・著(ワニブックスPLUS新書/税抜き880円)

 なんだかよくわからない新制度「マイナンバー」。『大丈夫か? マイナンバー』は、立案・制度導入を担当した衆院議員の西村康稔が、その仕組みを解説し、「おそれるな、つかいこなせ!」と、Q&Aで指南する。メリットは何か? どういう場面で使われ、また情報管理はどうするのか? 副業を持っている場合は? いちいち、ていねいに疑問に答えてくれるので、わかりやすい。子どもでも15歳以上なら申請は可能、など細かいフォローもある。

◆『厳選500ジャズ喫茶の名盤』後藤雅洋・著(小学館新書/税抜き890円)

 東京・四谷で半世紀も続くジャズ喫茶が「いーぐる」だ。店主・後藤雅洋が、1万枚を所蔵するアルバムの中からこれぞと推薦するのが『厳選500ジャズ喫茶の名盤』である。基本セレクションほか、巨匠、リラックス、ピアノ、白人、フリー、ヴォーカルとジャンル別にガイドする。名盤中の名盤、ソニー・クラーク「クール・ストラッティン」は、その昔、これがかかると「お客が全員でテーマメロディーを歌いだした」なんて話も楽しい。

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おかざき・たけし

 1957年生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。『上京する文學』をはじめ『読書の腕前』など著書多数

<サンデー毎日 2016年1月31日号より>

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