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ヒマラヤ山脈南麓(なんろく)に位置するブータンは、自然環境の保護を国是とし、温室効果ガスの「吸収国」として知られる。その一方で、地球温暖化によるさまざまな影響を受けている。特に山岳部の氷河が解けてできた「氷河湖」は今後も拡大が予想され、同国政府が決壊による洪水の発生を警戒している。
首都ティンプーにある国家気象洪水予警報センター。パソコンの画面には、中部の河川の水位がリアルタイムで表示されていた。水位は3段階で表示され、2番目の「警告」以上で警報が鳴る。異常を感知したらすぐに災害対策の担当部局や地元政府に連絡し、避難準備などを促すシステムになっている。担当者は「衛星電話や無線など複数の通信を確保している」と言う。
過去数十年にわたる気温の上昇による降雨量増加などで、ブータンの氷河は解けて後退しており、経済省水文気象局によると国内の2600を超える氷河湖のうち、24カ所に潜在的な危険があると言われている。1994年の北部ルナナ地方での氷河湖決壊洪水では、古都プナカなどプナツァン川流域で20人以上が死亡、約600人が被災した。
センターは2015年11月、国際協力機構(JICA)の支援を受け拡充された。国連開発計画(UNDP)の支援で11年以降に整備した観測所と合わせ、計4河川15地点の水位を監視する。昨年6月に氷河湖が決壊した際も、西部の観測所で水位の微妙な変化をキャッチ。氷河湖が小規模だったため洪水は起きなかったが、担当者は「水位が上がる7時間前に下流の自治体に避難を呼びかけることができた」と手応えを語る。
ブータンでは氷河湖決壊のほかにも気候変動が関わっているとみられる洪水が多発している。00年には大雨による洪水や地滑りで約200人が死亡。09年にもサイクロンによる大雨で死者が出た。山岳地帯にあり国土の高低差が大きいことや、自給自足型の農業が中心であることなどから、気候変動は国民生活にも大きな影響を及ぼすと言える。
このためブータンは国土保全に力を入れ、憲法で森林が国土の6割を下回ってはならないと規定。植林などを続けている。13年の二酸化炭素(CO2)排出量は推定220万トンだったのに対し、森林の吸収量は同630万トンに上るほどだ。
だが、水文気象局のタバ・ブッダ・タマンさん(35)は「数十年単位で見れば、気候変動が洪水を引き起こすケースがさらに増えるだろう」と懸念する。
こうした中で、JICAは氷河湖決壊洪水による浸水被害の予測調査や、被害範囲などを示したハザードマップの作製などを支援。宇宙航空研究開発機構(JAXA)も衛星を使って氷河湖の分布を調査したほか、昨年6月の氷河湖決壊の際は、衛星による緊急観測を実施した。
名古屋大大学院の藤田耕史准教授(氷河学)は「ヒマラヤの奥地では、重機で水を抜いて水位を下げることは困難だ。早期警戒システムの整備が最も現実的な選択肢となる」と言う。
JICAブータン事務所の朝熊由美子所長は「台風などの水害が多い日本のノウハウに対する期待は高い。今後も協力して災害対策を進めたい」と話している。【ティンプーで金子淳】
■ことば
ヒマラヤはサンスクリット語で「雪の住む場所」という意味。多くの氷河があり、南アジア諸国の重要な水資源となっている。だが、近年は気候変動の影響で氷河の融解が加速。極地の氷河に比べ海面上昇への影響が大きく、対策が急務となっている。
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