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SUNDAY LIBRARY

私的本屋賞『よこまち余話』木内昇・著

時の境目が溶けた人たちの物語

◆『よこまち余話』木内昇・著(中央公論新社/税抜き1500円)

     これは、境目にいる人たちの物語だ。

     昔を描いた小説ではふつう、「時は何年、何時代」と銘打たれる。本書は人々が長屋で暮らし、青年が趣味のレコードを買う時は質入れで金を工面し、すべての子供が中学校にいけるわけではない頃、と読んでいくうちにわかるが、「いつ」というくくりはない。読者は「今」と線引きをしないまま物語に入り込む。だから、しっくりなじむ。

     登場人物は30代半ばのお針子、炭代や食事代をケチるため彼女の家に上がり込むお婆さん、大人になりかけの魚屋の次男、半人前の糸屋など、いずれも何かのはざまにいる人たち。何人かはこの世と先の世を行き来する。彼らに導かれ異界を覗(のぞ)く者もいる。

     だいじなのは、「加減」を知っているということだ。過去に行き、悲惨な史実を防ごうとする話がよくあるけれど、本書の者たちはただ居合わせ、見守る。口を出せば、国や人の運命を変えられるかもしれない。でも古布を繕おうとツルツルの人造絹糸を使っても、それは浮くだけだ。

     終わる夏を見送るように、しおれた花を愛(いと)おしむように、時の境目が溶けた人たちは、切ないまなざしを投げかける。今の人々が、できることとやっていいことの区別がつかず、不穏な方向に歩み出し、誰も気に留めないなら、「いつかいた人たち」が哀悼を示すしかないのだ。

     静かな悲しみの中に、とぼけた味も併せ持つのが絶妙。心にしみる17の連作。

    (東京 代官山 蔦屋書店 間室道子さん)

    <サンデー毎日 2016年3月6日号より>

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