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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『これで駄目なら』『アメリカ最後の実験』ほか

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羽ばたく学生たちへのメッセージ

『これで駄目なら 若い君たちへ−−卒業式講演集』カート・ヴォネガット/著(飛鳥新社/税抜き1600円)

     卒業の春である。新しい人生の扉を叩(たた)く若者たちに、あのカート・ヴォネガットが各地で講演をしていた。『これで駄目なら』(円城塔訳)は、1970年代から2000年代に、シカゴ大学ほかでの、卒業生に贈る講演9編を収録する。

     『猫のゆりかご』の作家は、大人になることの真の意味を説いている。「必ず退屈することになるし、孤独を感じる」と、苦い省察もあれば、愛を勝ち取るには「いい服を着て、いつも微笑(ほほえ)んでいること。最新のヒット曲の歌詞を全部覚えるといい」など心が和む。

     女子大では「君たちのことが好きだ。誇りに思う。期待している。元気でいてほしい」と感動的に語り出すのだ。そして「本を読むことをやめてはいけない」とも言う。カルチャーヒーローによる、その真摯(しんし)な態度に、学生たちは感銘を受けただろうと思う。

     決してネタを使い回さず、たとえ話やジョークを織り交ぜ、趣向を凝らす。さすがヴォネガット。これから卒業していく若者に、ぜひ読んでほしい。

    ◆『アメリカ最後の実験』宮内悠介・著(新潮社/税抜き1500円)

     四肢を失った天才少女棋士を描く『盤上の夜』が話題となった。注目の作家、宮内悠介が新作長編『アメリカ最後の実験』を放つ。最難関の音楽学院を受験するため、西海岸に渡ってきた日本人の若者・脩(シユウ)。彼の目的はもう一つ、高校の時に失踪したピアニストの父を探すことにあった。受験と捜索、その間で出会う同年代の才能たち。アメリカという国家。謎の楽器「パンドラ」。そして殺人。全編に音楽が響き渡る中、自己を追求する斬新な青春小説。

    ◆『牛を飼う球団』喜瀬雅則・著(小学館/税抜き1400円)

     消滅寸前だった高知の独立リーグを率い、逆転の発想で地域創生にまで実を結ばせた男がいた。喜瀬雅則『牛を飼う球団』は映画化されそうな驚きのノンフィクション。「高知ファイティングドッグス」の再建に取り組んだのは若き実業家。彼は自ら球場でパンを売り、練習後に選手たちに農作業をさせ、牛も飼う。過疎の町に本拠地を置き、選手は町民に、農業を通して球団と地域をつなぎ再生を果たす。経済の疲弊、人口減、高齢化をはね返す感動のドラマだ。

    ◆『マンモスのつくりかた』ベス・シャピロ/著(筑摩書房/税抜き2200円)

     帯背の「本気です。」の文字に笑った。ベス・シャピロ(宇丹貴代実訳)『マンモスのつくりかた』に登場する科学者たちは、クローンを使って絶滅種を甦(よみがえ)らせる研究をする。遺伝子研究と技術の進歩により、マンモスを復活させることも夢ではない、というのだ。そもそもなぜ絶滅したのか、という疑問から、クローン作製の具体的方法と、復活させたマンモスの保存問題まで、「本気」度が伝わってくる。壮大な夢を追う科学者たちにロマンを見る。

    ◆『アーサーとジョージ』ジュリアン・バーンズ/著(中央公論新社/税抜き3000円)

     『フロベールの鸚鵡(おうむ)』で知られるイギリスの作家ジュリアン・バーンズが、『アーサーとジョージ』(真野泰・山崎暁子訳)で扱うのはコナン・ドイル。すなわち「アーサー」。あのホームズを生んだ作家と、実直な事務弁護士「ジョージ」の人生が交差するのは1906年、ジョージが連続家畜殺しの罪で懲役に服す。獄中でホームズを読んだ彼は汚名をすすぐため、アーサーに調査を依頼した。名探偵コナン・ドイルの活躍を描く2段組み約500ページ。

    ◆『連載終了!』巻来功士・著(イースト・プレス/税抜き925円)

     東京で漫画家になると決めて大学を中退した、21歳の巻来功士(まきこうじ)。たまたま作品を持ち込んだ雑誌で連載が決まり、有頂天になったのもつかの間、雑誌が休刊。それでもあきらめずに新たな作品を生み、人気が出たと思ったらまた終了。まるでジェットコースターのような漫画家人生を描いた『連載終了!』。巻末の『週刊少年ジャンプ』元編集長との対談で、構成力という縦糸と、演出やキャラクター作りという横糸があってこその漫画という言葉に納得。

    ◆『ゼロ』マルク・エルスベルグ/著(角川文庫/上下各税抜き880円)

     2014年、ドイツを熱狂させたスリラー長編、マルク・エルスベルグ(岡むつみ訳)『ゼロ』が訳出された。匿名グループ「ゼロ」によりネット流出した映像には、ドローンがアメリカ大統領を襲撃する光景が映っていた。グループの目的は何なのか?「ゼロ」の正体を調査するジャーナリストのシンシアは、巨大な組織の影と、監視型社会の進行に追いつめられていく。現代の情報化社会が招くリスクが、フィクションの形でリアルに現前する。

    ◆『人間滅亡的人生案内』深沢七郎・著(河出文庫/税抜き650円)

     1987年に没した深沢七郎が人生相談に答えていた。『人間滅亡的人生案内』は、いずれも『楢山節考(ならやまぶしこう)』の著者ならではのユニークな回答ばかり。25歳にして酒の飲み過ぎで胃潰瘍になったダメ男には「胃カイヨウでもいいから酒を飲みつづけたほうがいい」。どんなことにも熱中できないという女性編集者には「幸福に慢性になってしまったのではないか」とハネつける。心地よいまでの進言、直言は、世間に媚(こ)びず、ユニークな生きかたをしてきた著者ならでは。

    ◆『教えてゲッチョ先生! 雑木林のフシギ』盛口満・著(ヤマケイ文庫/税抜き880円)

     奥武蔵にある「自由の森学園」の理科教師を長年勤め、生徒たちから「ゲッチョ」のあだ名で親しまれた昆虫博士が盛口満。『教えてゲッチョ先生! 雑木林のフシギ』は、身近な自然の中で息づく昆虫や植物の「フシギ」に気づかせる。「ドングリ」と一口にいうが、その種類は日本に17もあり、そこに巣食い、産卵する虫がいる。寂しく見える雑木林も、よく観察すると、春を待つ樹々たちの芽吹きの声が聞こえてくる。この一冊を持って親子で外へ出よう。

    ◆『ショッピングモールから考える』東浩紀・大山顕/著(幻冬舎新書/税抜き840円)

     ショッピングモールといえば、地方に乱立し、巨大資本による画一化を招き、地元商店街の敵として批判的に論じられてきた。東浩紀と大山顕は『ショッピングモールから考える』で、「荒廃」論をくつがえす。二人は「新しいコミュニティ」「新しい開放性」「新しい普遍性」をそこに見いだすのだ。浅草を見ても東京の生活はない。それより「豊洲のららぽーと」へ行け。「モールにこそ地方のリアリティがある」という、新しい社会の見取り図を示す。

    ◆『ジャーナリストという仕事』斎藤貴男・著(岩波ジュニア新書/税抜き840円)

     斎藤貴男は、『ルポ 改憲潮流』や『「東京電力」研究 排除の系譜』など、反権力の姿勢を貫き、タブーにも挑む硬派のジャーナリスト。『ジャーナリストという仕事』は、自らの体験を通して、この仕事の意義を問う。権力との癒着、ネットなど情報が拡散する困難な時代に、どの視点に立つか、正しい情報を伝えるにはどうすればいいのか。業界紙や週刊誌記者時代の苦労話も含め、ジャーナリズムのあり方がここに問いただされている。

    ※3カ月以内に発行された新刊本を扱っています

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    おかざき・たけし

     1957年生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。『上京する文學』をはじめ『読書の腕前』など著書多数

    <サンデー毎日 2016年3月6日号より>

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