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東京パラリンピックへ 声援をパワーに、ベスト尽くせる環境づくりを

鳥原光憲会長(左)と高桑早生選手=梅村直承撮影

陸上の高桑早生選手×鳥原光憲日本障がい者スポーツ協会会長が対談

     2020年東京パラリンピックへの飛躍の試金石となるリオデジャネイロ・パラリンピックは9月7日の開幕まで半年を切った。4年に1度の祭典に向けた日本選手団の選考も進み、12年ロンドン・パラリンピック以上の活躍が見込まれている。4年後の東京パラリンピックで「全会場満員」を目標に掲げている日本障がい者スポーツ協会の鳥原光憲会長(日本パラリンピック委員会会長)と、陸上で2大会連続の出場を目指す高桑早生(エイベックス)がリオに向けた抱負、4年後の東京に向けて取り組むべきこと、社会の変化への期待を語り合った。【構成・小坂大】

     −−リオ大会をどう位置づけますか。

     鳥原 20年東京大会で飛躍するためのステップになるような活躍を期待したい。東京大会では金メダルランキングで7位を目標にしている。最近では04年アテネ(10位)、08年北京(17位)、12年ロンドン(24位)と順位が低下傾向にあり、ここで巻き返さないと東京大会が見えてこない。日本選手団は7月に決まるが、種目の多い陸上、水泳をはじめ、車いすラグビー、車いすバスケットボール、ゴールボールなどの団体競技に期待している。

     高桑 ロンドン大会を超えることを目標にしています。走り幅跳びは昨年の世界選手権で3位といい結果を残し、自信がついてきました。リオは20年に向け、大事な大会だと思う。若い世代に20年東京大会をより明確な目標にしてもらうためにもリオでの成功は必要不可欠と思います。

     −−東京大会に向けて次世代をどう育成しますか。

    昨年10月にドーハで行われた世界選手権の走り幅跳びで銅メダルを獲得した高桑。出場を目指すリオデジャネイロ・パラリンピックでも好成績が期待される=写真家・越智貴雄さん撮影

     高桑 陸上は、なかなか若い選手が出てきていません。私なりの分析としては用具かなと感じています。特に私の下腿(かたい)義足は高価なので、小中学生が自分で買うわけにはいかない。もっと走ることを身近に感じてもらえるように部品をレンタルしたりリサイクルしたりして、競技を始めたばかりの子が使うような循環が可能になればいいと思います。お金が壁になっているのは心苦しい。そこをクリアできなければ若い世代が出てくるのは難しいと思います。

     鳥原 最近の3大会で順位が下がってきているのも、若い世代が育っていないことが理由の一つだと思う。若手育成には何よりもアスリートの支援体制の確立が不可欠。最近は障害者スポーツに対する企業の支援が積極化して、スポンサー企業やアスリートを雇用する企業が増えてきた。こうした企業の貢献によって、競技用具や海外遠征などの経済的負担の軽減、コーチの確保など練習環境の改善も含めた総合的な支援体制の充実が期待される。

     高桑 私は大学時代に体育会競走部に所属させてもらい、恵まれた環境にいたと思っています。大学に競技場があり、レベルの高いアスリートと一緒にトレーニングできたのはすごくいい4年間だった。私は働きたいというこだわりがあった。でも、競技も頑張りたいという私の思いを会社がくんでくれた。私のように働きたいと思っている人もいれば、フルタイムアスリートと思っている人もいる。いろいろな考えのアスリートが自分たちの考えを貫き通せるような選択肢が増えてきたのは、良い方向にきていると思います。

     鳥原 高桑さんのような考えの人たちのためにセカンドキャリアを含めたアスリートの雇用の確保はとても大事。企業がスポーツに力を入れるのは、スポーツは人を育て、組織の連帯意識を高めるなど多くの利点があるからだ。パラリンピックスポーツも同じ。現役時代にスポーツをやり通した人は立派な仕事ができる。だからこそ企業はアスリートが競技に専念して、ベストを尽くせるような環境を整えてほしい。

     −−20年大会は「多様性」がキーワードの一つだと思います。社会の変化に期待することはありますか。

     高桑 やはりまだ日本人は違うものに対して、反射的に一定の距離を取ってしまうことは感じています。競技をしている姿はある意味で障害をあらわにしている瞬間で、良い悪いではなく、見慣れていない人や、普通の人だったら少しびっくりしてしまう瞬間があると思う。

     私は健常者の学生とトレーニングしている。4年間で自分たちのコミュニティーに義足が1人いることに違和感がなくなってくるのが不思議だなと思いました。初めて会った時は本当に距離を持たれてしまうが、一緒にトレーニングしたり、会話したりしていると、普通になってくる。障害を隠すことを悪いとは思わないが、自分の表現方法の一つとして、ありのままの姿を見せるのは周りにも、ときには良い効果を持たせると思いました。

     鳥原 パラリンピックの価値は持てる機能を最大限にいかして限界に挑戦するアスリートの姿に多くの人が感銘を受け、勇気を与えられることにある。ひいては共生社会への変革が促される。パラリンピックを見ると人に「できないことは何もない」と思う。できなくするのは世の中にそれを妨げるようなバリアーがあるからだと分かる。こうしたバリアーをなくし、誰もが分け隔てなく個性とか能力を発揮できるような多様性を受け入れる社会にしなければならない。こうした社会に変わっていくことがパラリンピックの一番大きな意義だと思う。そういうレガシー(遺産)を最大にするために競技場を満員にして盛り上げる必要がある。だからファン作りを必死になってやっていく。

    鳥原光憲会長=梅村直承撮影

     −−ファンを増やすということですが、内閣府の世論調査では70.3%が東京パラリンピックに「関心がある」と答えましたが、観戦は「行きたいと思わない」が63・1%。「行きたい」の36.4%を上回りました。

     鳥原 最近はメディアによる障害者スポーツの情報発信が活発化して、社会の関心はかつてなく高まっている。しかし、パラリンピックの内容まで知っている人はごく一部で、認知度が低いのが現実だ。まずはできるだけ多くの人にパラリンピック競技を知ってもらい、観戦してもらうことからファンを増やしていく必要がある。

     スポンサー企業と協力して昨年からファン作りの活動を始め、各種の競技大会に観戦に来てくれる人が少なくとも以前に比べて3、4倍に増えている。まだまだ競技会場を満員にするまでにはほど遠いが、ファン作りに地道な努力を重ねていけば、満員の観客の実現につながると思う。

    高桑早生選手=梅村直承撮影

     高桑 会長がおっしゃったように、やはり観戦に行って「どんな気持ちになるのか」「どんな光景が待っているのか」のイメージがつかない人々がほとんどだと思います。観戦したいと思うのは、自分がわくわくする何かがあるから。パラリンピックに、そういう感覚を持てないのだと思います。大会に出場すると、メディアの方の数はすごく増えたけど、観客はそれほど増えていないと正直思うときはあります。アスリートなのか、パラリンピックの競技自体なのか分からないが、人を集める力がどこか足りないのかなと思っています。アスリートとしては人を引きつけられる魅力的な選手にならないといけないとは感じています。

     鳥原 パラリンピック競技自体にも、アスリートたちにもファンを引きつけるだけの魅力がある。その魅力をどうやって訴えるかだと思う。まずは高桑さんのように記録に挑戦し、可能性の限界に挑戦するアスリートの魅力を感じてもらうこと。特に小中学生を中心に学校の授業の一環としてパラリンピック競技の体験やアスリートとの交流の機会を増やしていく必要がある。さらに、その子どもたちに競技大会を観戦する機会を作り、パラリンピックの魅力を知ってもらう。子どもたちがファンになれば親に影響して家族ぐるみのファンになっていく。ロンドン大会も観客の75%は家族連れの観客だった。日本でもそういう姿が実現できるように進めたい。

     −−魅力を伝えるための新たな試みはありますか。

     鳥原 各種の国際競技大会の日本開催を増やしていきたい。また、日本で定期的に開催している各種の競技会に外国勢を招く機会を増やしていきたい。そういう大会に大勢の人に観戦に来てもらい、パラリンピック競技とアスリートたちの魅力を感じてもらいたい。高桑さんがライバルの外国選手と競う姿が観戦できれば楽しいと思う。一般の陸上競技大会に障害者の競技種目を加えるなど、いろいろな工夫を考える必要もある。

     高桑 パラスポーツに詳しい人が出てきたら面白いと思います。私の先輩に障害者のクラス分けに詳しい人がいた。でも、その先輩は試合に来てくれたことはない。会場に来てもらうには何かが足りなかった。そういう詳しい人がいると、競技場で実況ができるようになると思う。

     鳥原 まさにそうした試みとして昨秋に車いすラグビーのアジア・オセアニア選手権(千葉)をはじめゴールボールなどいろいろな競技会場で観客に分かりやすいように解説を実況し、それが評価された。せっかく来てくれた観客に競技の面白さを伝え、満足してもらえるような工夫をしなければならない。今までファン作りという発想で競技会を運営する余裕もなかったので(笑い)。

     高桑 大会を作り上げるだけで精いっぱいという感じでしたね(笑い)。

     鳥原 だから大会の周知も不十分だった。これからは観客に喜んでもらえるサービスを準備して、ファン作りにつなげたい。

     −−ロンドン大会は満員の観客で埋まりました。生かせることはありますか。

    対談する鳥原会長(左)と高桑選手=東京都港区で、梅村直承撮影

     高桑 海外を経験したときに、その人の表情とか、声のかけ方を日本と比べてしまいます。あまり目にしないものが現れたら、驚いてしまうことは、どこの国でも変わらない。同じような距離感があります。その差を埋めようとしたのが英国の国民だと感じていました。ロンドン市内はいつでも手助けして、パラリンピックを盛り上げようという雰囲気を感じ取ることができました。

     陸上では2017年に国際パラリンピック委員会(IPC)の世界選手権に続いて世界選手権がロンドンで開催されます。さすが、ロンドンという感じでした。ロンドン大会の遺産を持続させようとする動きと感じました。どうやって面白くするか考えて、すてきなイベントになっています。お手本にすべきだと思っています。

     鳥原 ロンドン大会は約280万枚のチケットが完売し、会場が連日、大勢の観客の応援で盛り上がった。これに見劣りしない状況を作り出すことが、東京大会の大成功には不可欠だ。要は熱心なファンで会場を埋めること。目指すファン作りの一つの柱は小中学校の子どもたちを中心とした家族のファン。もう一つの柱は企業の社員を中心とした家族のファン。こうしたファン作りを自治体、企業や関係団体と連携してオールジャパンで広げていく。地道な活動の積み重ねでロンドンに負けない熱心なファンで大会を盛り上げられる状況を作り上げたい。

     高桑 たくさんの観客が来ると選手としてのモチベーションが違う。ベストのパフォーマンスをしようと強い気持ちになる。私も地道かもしれないが、お友達レベルでいいので、応援してくれる人を作っていくことが一番かなと思います。大学の同期も「やっと20年に早生の試合を生で観戦できる」と言ってくれています。後輩、先輩も期待してくれている。会社の同期からは「あなたの頑張りが私のモチベーションになる」と言われました。私はみなさんが応援してくれるのがモチベーションになると思っていたのに、まったく逆の立場で言われたのがすごくうれしかったです。私たちも人の心を動かすことができるのかと思いました。彼らが喜んでくれるために頑張る。私もやりがいがあります。

     鳥原 ロンドンでも開催が決まってから、障害者スポーツの啓発活動に力を入れ、学校でのパラリンピック競技の体験学習やアスリートとの交流を進め、その積み重ねで満員の観客につながったということで大いに勇気づけられた。開催国としてはアスリートがベストを尽くせる最高の競技環境を整えることが最重要課題だ。選手村や競技施設のアクセシビリティー(利用しやすさ)はもとより、何が大事かと言えば、やはり満員の観客で各会場が盛り上がることにあると思う。

     高桑さんは100メートルや走り幅跳びなどでメダルを目標に挑戦している。そういうアスリートがベストを尽くせる環境づくりが我々の最大の使命である。

              ◇

     とりはら・みつのり 東大経済学部卒、1967年東京ガス入社、2006年社長。会長を経て相談役。11年に日本障がい者スポーツ協会会長に就任。日本パラリンピック委員会(JPC)会長も兼務する。20年東京五輪・パラリンピック組織委員会調整会議メンバー。東京都立小石川高、東大でサッカー部。東京ガスで監督も務めた。東京都出身。73歳。

     たかくわ・さき 小学6年で骨肉腫を発症し、中学1年で左脚膝下を切断した。東京成徳大深谷高で陸上を始め、20歳で出場した2012年ロンドン・パラリンピックは100メートル、200メートルでともに7位。15年世界選手権では走り幅跳びで銅メダルを獲得した。100メートル(T44、13秒69)の日本記録を持つ。慶大を経てエイベックス所属。埼玉県熊谷市出身、23歳。

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