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岡崎 武志・評『浅草はなぜ日本一の繁華街なのか』『アンと青春』ほか

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商人たちの心意気で盛り返す

◆『浅草はなぜ日本一の繁華街なのか』住吉史彦・著(晶文社/税抜き1600円)

 浅草は、関東大震災以前に東京一の盛り場として繁栄し、のち銀座、新宿、渋谷などに、その座を明け渡す。しかし今、外国人観光客が押し寄せるなど、にぎわいを取り戻しつつある。

 『浅草はなぜ日本一の繁華街なのか』は、すき焼き「ちんや」六代目・住吉史彦が、老舗主人から浅草の歴史と魅力を聞き出す。しかも、浅草の隠れ家的バーで。生鮨(ずし)ではなく仕事をした江戸前寿司を出す「弁天山美家古寿司」の五代目は「その店の親父(おやじ)も一緒に食べられている」と老舗の覚悟を語る。

 創業200余年の老舗「駒形どぜう」の六代目は、ドジョウが激減し、店から消えた時期に困難な養殖に乗り出す。「美味(おい)しく、お値打ち、そして気持ちよく」を掲げ、暖簾(のれん)を守った。著者は「江戸文化を食べる店」と称し、称賛する。

 多くは戦中戦後の激動を生きた人たち。どん底から這(は)い上がり、浅草を復興させた心意気が全ページにみなぎっている。

◆『アンと青春』坂木司・著(光文社/税抜き1600円)

 デパ地下の和菓子店で働く梅本杏子(アンちゃん)の、和菓子愛をミステリー仕立てにした坂木司『和菓子のアン』は大ベストセラーに。『アンと青春』はその第二弾。例によって、個性的な仲間に囲まれて、和菓子を巡る日々の謎に挑んでいく。「空の春告鳥」は、他店で目撃したクレイマーの男性客が、頼りない店員に吐き残した「飴(あめ)細工の鳥」という言葉の意味が解き明かされていく話。読後、和菓子を口にしたくなる。

◆『外道クライマー』宮城公博・著(集英社インターナショナル/税抜き1600円)

 世界遺産の「那智の滝」登攀(とうはん)での逮捕をきっかけに、「最も野蛮で原始的な登山」に挑戦し続けるのが宮城公博。すなわち『外道クライマー』だ。彼は、数々の登攀歴を持つ実力者でもある。なのに、なぜ「外道」に走るのか。46日間のタイのジャングル行ではあやうく死にかけた。「野蛮で原始的な沢登りの世界には、それにふさわしい野蛮で原始的な人間が多い」と、国内外の「人類初」に懸ける情熱がすごい。

◆『音鉄』片倉佳史・著(ワニブックス/税抜き1600円)

「乗り鉄」「撮り鉄」など、鉄道オタクの種類は数々あれど、驚くのは『音鉄』。著者の片倉佳史は、台湾在住ながら、日本の鉄道音を求めて、録音機材を片手に飛び回る。駅メロディーから走行音、踏切の警報音、車内放送などを徹底採集し、聴き比べる。長崎電気軌道では吊(つ)り掛けモーターの唸(うな)りに注意って、どんだけマニアックだ。録音テクニック、音鉄体験、そのほか、音鉄ネタ250本を収録。いや参りました。

◆『九州 男の隠れ湯 300湯!!!』合原幸晴・著(書肆侃侃房/税抜き1500円)

 すでに温泉本は世にあふれている。しかし『九州 男の隠れ湯 300湯!!!』の合原幸晴は、温泉天国・九州に特化し、500以上につかり、おすすめを300に絞った。「旅館やホテルよりも、銭湯型の個人経営や集落共同経営型」にこだわったのも本書の特色だ。各湯のデータと写真はもちろん、「鄙(ひな)び度」「話題度」「インプレッション」などを三ツ星で採点。著者は温泉で本も読んでしまうのが気に入りました。

◆『よっちの本(1)』タタン(ゆうたん)・著(トマソン社/税抜き1000円)

 主人公の「よっち」は猫の「ニャーニャー」と暮らしている。仕事をするれっきとした社会人だが、マイペースでちょっと天然。休日の午後、何をしようかと考えながら寝てしまったり、たまに早く出社するとタイムカードを押し忘れてしまったり。タタン(ゆうたん)の描く漫画『よっちの本(1)』には、誰もが共感する出来事が詰まっている。納豆好きなよっちだけに、おまけのページ「なっとうレシピ」は要チェック。

◆『中島らも短篇小説コレクション』中島らも・著(ちくま文庫/税抜き880円)

 小堀純・編の中島らも『中島らも短篇小説コレクション』は、「美しい全ての手は哀しい」で書き始められる、未発表の「美しい手」をはじめ、15編を厳選する。「日の出通り商店街 いきいきデー」では、「屍(しかばね)の山を築きたかった」と語る危ない老医師や、奇妙な連中が全員暴走するスラップスティック世界を描く。ほか、「ココナッツ・クラッシュ」では、椰子(やし)の実をなぜか40年も頭に乗せ続ける坊主が登場。

◆『サッカーデイズ』杉江由次・著(小学館文庫/税抜き580円)

 出版社勤務の杉江由次は、埼玉に生まれ育ち、浦和レッズサポーター。娘が入団した少女サッカーチームのコーチを引き受けたが、見るのと教えるのとでは大違い。しかし次第にのめり込み、仕事以外の時間を練習、試合につぎ込むことになる。『サッカーデイズ』は、コーチの父と娘がレギュラーを勝ち取るまでの熱い奮闘物語。「これは未来のなでしこ奮闘記だ!」と、佐々木則夫元「なでしこ」監督が推奨する。

◆『左遷』楠木新・著(中公新書/税抜き820円)

 いきなりの地方勤務の辞令に愕然(がくぜん)。楠木新『左遷(させん)論』は、そんな理不尽な人事のメカニズムについて、細かく分析し、解説する。著者は、不本意と思える処遇にも、組織の論理からすれば、筋が通っている場合も少なくない、と見る。長期安定雇用、年次別一括管理、年功的な人事評価など、動かせぬ日本独自の慣行にいかに対処すべきか、についても説く。マスコミで大活躍の池上彰は、NHKでの左遷が転機だったという。

◆『山本周五郎で生きる悦びを知る』福田和也・著(PHP新書/税抜き800円)

 福田和也『山本周五郎で生きる悦びを知る』は、ちょっと意外な組み合わせによる周五郎論。没後半世紀の国民的作家がなぜ読まれ続けるのか。『赤ひげ診療譚』『さぶ』『樅ノ木は残った』など代表作を通じ、独自の視点でその魅力に迫る。「人間の人間らしさを生涯にわたって探究し続け、自らの生活そのものをささげて小説を書き続けたところに周五郎の強さがある」と言う。今こそ、その真価が問われるべきだ。

◆『思い立ったが絶景』吉田友和・著(朝日新書/税抜き880円)

 旅行作家の吉田友和は、これまでに世界約90カ国を旅行し、毎月海外へ出かけるという強者(つわもの)。そんな目で選んだ世界の名所を『思い立ったが絶景』につづる。「食べる」「買う」は二の次に、あくまで「見る」ための旅。チベットの山岳地帯では首が痛くなるまで空を見上げた。「手を伸ばせば雲が掴(つか)めそうなほどである」。マチュピチュ、サンブラス諸島、ナミブ砂漠、エルサレム……美しいカラーの風景写真に納得。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2016年4月24日増大号より>

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