メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

Listening

<記者の目>栃木女児殺害 被告に有罪判決=野口麗子(宇都宮支局)

傍聴券を求めて宇都宮地裁前に集まった人たち=宇都宮市で4月8日、宮武祐希撮影

録音・録画頼みの危うさ

 栃木県日光市(旧今市市)で2005年12月に小学1年の女児(当時7歳)を連れ去り殺害したとして、殺人罪に問われた勝又拓哉被告(34)に対し、宇都宮地裁は求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。被告が公判で全面的に否認し、直接的な物的証拠がない中で有罪となった決め手は、取り調べで自白したとされる録音・録画の映像だった。検察は法廷で7時間以上の映像を流した。全18回の公判を傍聴した私は、映像頼みで「真実」にたどり着いたと言えるのだろうか、と複雑な気持ちになった。

     法廷で初めて勝又被告を見たのは今年1月29日。殺人罪の審理に入る前の別件での裁判だった。背中を丸め、声も小さく、気弱な印象だった。

     3月10日。映像の審理が始まった。取り調べをする検察官の背後から固定カメラで撮影した映像が、スクリーンに映し出されると、裁判員や記者らに緊張が走った。

     14年2月の取り調べ映像は衝撃的だった。「黙秘権を使いたい」と話した勝又被告を検察官が強い口調で責める。「自分のやってること、ひきょうだろ」「このずるい様子を被害者や遺族に見せたいね」。勝又被告は突然、「もう無理!」と5、6回叫び、検察官の後方の窓に突進した。法廷のスピーカーが音割れするほどの大声を出し、画面から消えた。「もう無理だよー」。切ない声が聞こえた。

     弁護側はこの場面を「自殺未遂」と主張し、無理な取り調べを続けたと批判した。検察側は「取り調べから逃亡しようとした」と説明した。私の感想は「現実逃避をしたかったのでは」というものだ。自殺未遂とは思えなかったし、「取り調べからの逃亡」とも少しニュアンスが違う。映像自体は「客観的」であっても結局、見る側の主観が影響するのは避けられない。

    たどたどしい日本語で説明

     勝又被告の日本語が想像以上にたどたどしかったことも印象的だった。被告は台湾出身。父親の借金のために2年に1度は夜逃げを繰り返す生活で、12歳ごろに来日。テレビや漫画で日本語を覚えたという。法廷では「8日(ようか)って8だよね」と弁護人に確認する場面もあった。口癖は「大体そんな感じだ」。検察官に「『大体』とはどこか違うのか」と聞かれても「なんと言えばいいか……」と説明できなかった。

     3月15日。裁判員の心証に影響を与えたとみられる映像が流れた。14年6月、殺害の状況を身ぶり手ぶりを交え、再現した場面だ。「顔見られてる、車見られてる、アパート知られてる、このまま解放して、もししゃべられたら家族が困るから殺すしかない」。泣きながらこう語る様子は、いつもの無表情な被告とは違った。内容が具体的で真実味を帯びていると感じた。

     判決は、検察が示した間接的な物証では被告を犯人と認定できないとした上で、自白を重視した。被害者が膝からガクッとひざまずいたが、その後も刺した▽倒れた被害者を抱きかかえると、血で鉄の臭いがすごかった−−など映像でも流れた被告の供述について「想像に基づくものとしては特異な内容で、供述で初めて明らかになった事実もある。体験した者でなければ語れない」と信用性を認めた。

     判決後、裁判員5人と補充裁判員2人の計7人が記者会見した。「文面では伝わらないものが情報として入ってきた」と映像が有罪の心証につながったことを明かす一方、「演技をしているのかは分からない」との意見も出た。

     取り調べの録音・録画は09年からの裁判員裁判に合わせ、本格導入された。本来は、暴行などによる自白の強要がなかったか、客観的に判断するためのものだ。今回の判決は、検察にとって、自分の意思で話したといえる任意性という「守り」だけではなく、真実を話したとする信用性を裏付ける「切り札」となることを示した。

    客観的な証拠を捜査でそろえよ

     だが、今回の審理が映像頼みになった背景には、栃木、茨城両県警の捜査の不手際があったことを忘れてはならない。遺体周辺に当時の栃木県警幹部のDNAが交じり、それが判明したのは発生から3年余り後の09年。被告はそれまでに自分の車を廃棄した。

     女児の遺族は判決後「真実を知りたいという遺族の思いに被告が応えることなく残念」とコメントした。審理は高裁に移るが、1審の判断によって自白偏重が増幅されるとしたら本末転倒だ。捜査によって客観証拠をそろえるという基本がおろそかにされてはならない。

    コメント

    投稿について

    読者の皆さんと議論を深める記事です。たくさんの自由で率直なご意見をお待ちしています。

    ※ 本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して毎日新聞社は一切の責任を負いません。また、投稿は利用規約に同意したものとみなします。

    利用規約

    おすすめ記事

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 宮迫さん「謝罪会見開く」 20日午後、田村亮さんも同席
    2. 大麻所持容疑でRIZEメンバー2人を逮捕 Dragon Ashでも活躍
    3. ORICON NEWS 松本人志、闇営業の処分内容に疑問 宮迫・亮と後輩「分けてもいいのかなって」
    4. 宮迫さん会見「詐欺の被害者の方々におわび。すべての責任は僕に」 引退は否定
    5. 宮迫博之さん芸能界引退意向 吉本は面談継続

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです