メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

Listening

<そこが聞きたい>文化庁の京都移転 宮田亮平氏

文化庁長官の宮田亮平氏=山本晋撮影

[PR]

空間・人間の再配合を 文化庁長官・宮田亮平氏

 現在、最も注目されている中央官庁の一つが文化庁だろう。政府が進める省庁の地方移転の先がけとして京都への移転が計画されている。今春就任したばかりの宮田亮平長官(70)は長らく東京芸大学長を務めた教育者であり、国際的に活躍する金工作家でもある。芸術家の目に、文化庁が抱える多種多様の課題はどう映っているのだろうか。【聞き手・森忠彦、写真・山本晋】

−−文化庁=1=が管轄する業務はかなり広いですね。最近では東京五輪のエンブレム決定も長官が委員長を務められています。

 現在、最終候補4案への国民の意見を集めているところです。実は8日に発表するときまで、どのデザインが残っているのか、私たち21人の委員も知らされていませんでした。ある委員が絶賛していた作品が、類似作品があったとかで落とされたとも聞きました。その辺は、前回(類似性が指摘されて撤回された件)の反省というか教訓がありますから、事務局が徹底して調べました。とにかく余計な先入観がない、まっさらの状態で選んでいこうと心がけました。

 総計1万4599点の一般公募の中から選ばれたのが、あの4点です。発表の際にヒモを引っ張って幕を下ろした時、並んだ4点を見て、「おお! 違う。これは審査として大成功だな」と思いましたね。同じような作品や、どれか一つだけが違う雰囲気だと目立ってしまいますが、あの四つはそれぞれ個性豊かでメッセージ性もある。みんな違う、これは面白い選考になるぞ、と確信しました。

 最終的には集まった声を参考に委員会で選んでいくことになります。作者はすべて匿名で、男女も年齢もプロ、アマもわからない。ひょっとしたら小学生の作品かもしれない。でも、いいじゃないですか。みんなの心が一つになれば。国民のみなさんは25日の発表を期待してもらいたいですね。

−−就任直前になって文化庁の京都移転=2=が政府方針で決まりました。職員を含め、いろいろな反応が出ているのでは。

 就任後、(馳浩文部科学)大臣からは「京都に移転するよ」と言われていますが、具体的なことはまだ白紙で、わかりません。これから移転のための協議会が発足する予定で、そこで少しずつ固まっていくことになるのでしょう。

 ただ、口でいうほど簡単に移転できるような役所ではない、ということも事実です。現在、職員は約230人、非常勤を入れても360人程度の小さな組織です。それがどういう形であれ、現状規模のままで京都と東京に分散されるだけだとすれば、移動に伴う手間や経費だけで考えてみても、仕事の効率は落ちてしまいます。

 私は移転をするのなら、それに伴って文化庁という役所をもっと活力のある、国民にもその仕事の多様性を知ってもらえるような組織にすべきだと思います。職員ももっと積極的になってほしい。それはそのまま、日本の「文化」がより内外の人たちに広く、深く、認識してもらえるようになるということ。分散して京都に作るのであれば、それだけの空間と人間の配置の再配合が必要ですね。

−−文化庁は文化財だけでなく、芸術文化や国際交流、著作権なども担当しています。そうした分野まで京都なのか、という声を聞きます。

 関西圏に文化財がたくさんあるから文化財部をもっていく、という考えも単純です。すでに豊かな文化財があるのに、わざわざ移す必要があるのか。逆に今、不足している部署を移したほうが新しいものが生まれるという期待もある。かように、議論は簡単ではないでしょう。確かに今は東京に多くの役所が集中しすぎています。もっともっと西日本をはじめとした各地に文化行政の拠点があるのはいいことです。特に京都は国際都市でもあり、環境はすこぶるいい。ただ、省庁移転というのは一時的な政治の決定だけで拙速に行うのはどうでしょうか。もっと深い計画と設計が必要です。

 私は移転に反対しているわけではありませんが、今は大賛成というところまで自分の中で考えがまとまっていないのも確かです。これから(任期の)2年間の中で、固まってくるのかな。ともかく、移転が文化行政にとっていい方向に変わっていくということが前提です。今の文化庁が同じ規模のまま東西に分かれるだけでは、意味がないと思います。

−−長らく教育者として人材育成にかかわってこられました。日本の伝統工芸や芸能は世界的に評価される割には、日本の教育現場では「美術」の存在感が低いと思います。

 美術を教える人が、本物の美術に感動していないんですよ。自らが体の震えるような感動をしたことがないから、子供たちに感動を伝えることができない。もっともっと教育課程の中で芸術に触れる時間を増やしたいですね。

 これからの時代、素晴らしい人材を育てるには幅広い教養と多彩な感性が必要です。この感性を養う教育がほとんどできていない。その役割を担うのが文化庁なんです。美術に関して日本人全体の底辺を広げることに力を入れたい。

 日本人の伝統技術の中には、たくさんのヒントがあります。私はずっと金工を専門としてきました。秋に東京芸大美術館である企画展に「自在置物」がでます。江戸から明治にかけて、優れた金工職人たちが作った動物などの模型ですが、関節が動くので自在に動かせる。金工したあとサビをつけて、その上を漆でまいている。実に素晴らしい技術ですが、もっぱら海外での評価が高く、日本人にはあまり知られていません。

 日本は技術も高いし、世界に誇れる作品も作ってきましたが、どうもそのことに気づいていないし、アピールが下手です。昨年から認定基準が問題になっている世界遺産や記憶遺産などの問題も、根っこは同じ。まずは自らの文化の価値を知って、それを遠慮することなく堂々と世界へと発信していく。そのためのお手伝いをするのが、文化庁の仕事だと思います。

聞いて一言

 宮田長官は金工作家としても知られる。代表作はイルカをモチーフにしたシリーズ。東京・日本橋の三越本店新館のエンブレムでは約30匹のイルカが跳ねる。「18歳の冬、自信がないまま、佐渡から芸大を受験するために500トンの船に乗り込んでね。故郷を離れる寂しさと悲しさ。その時、波間を跳ねていたのがイルカの群れでした。後で思えば、あの時、イルカたちが僕の背中を押してくれていたんだなあと」。移転が決まった直後の就任だけに、戸惑いもあるのだろうが、今度は「文化」の背中を押す役割に徹してもらいたいものだ。


 ■ことば

1 文化庁の管轄

 1968年、文部省(当時)の外局として発足。長官、次長の下に長官官房(政策、著作権、国際文化交流など)、文化部(芸術文化、国語、宗教法人など)、文化財部(伝統文化、美術学芸、記念物、世界文化遺産など)があるほか、こうした分野の評価、提言などを行う各種文化審議会も。国宝や人間国宝、世界文化遺産の選考なども担当する。

2 京都移転

 東京一極集中の是正策の一つとして、政府が中央省庁の一部地方移転を検討してきた。3月までの議論で文化庁の京都移転が決まり、消費者庁と総務省統計局は、それぞれ徳島県、和歌山県で移転に向けた実証実験などを行うことになった。文化庁は今後、移転の時期などについて内閣官房などと協議する。


 ■人物略歴

みやた・りょうへい

 1945年、新潟県・佐渡生まれ。東京芸大卒、大学院(専攻は鍛金)などを経て97年から同大教授。金工作家としても国際的に活躍。2005〜16年、同大学長。4月に長官就任。

コメント

投稿について

読者の皆さんと議論を深める記事です。たくさんの自由で率直なご意見をお待ちしています。

※ 投稿は利用規約に同意したものとみなします。

利用規約

おすすめ記事
広告
毎日新聞のアカウント
ピックアップ
話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 「ホテルの明細書あれば1000万%アウト」 桜前夜祭の野党ヒアリング詳報

  2. 捜査員に知らされた姉の犠牲 「まさか路上生活とは」「理不尽」渋谷傷害致死

  3. 安倍前首相周辺が補塡認める 「桜を見る会」前夜祭

  4. 安倍氏の地元も「答弁、何だったのか」 「桜を見る会」補塡に疑問の声

  5. 見る探る 赤旗はなぜ桜を見る会をスクープできたのか 見逃し続けた自戒を込めて、編集長に聞いてみた

編集部のオススメ記事

のマークについて

今週のおすすめ
毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです