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<記者の目>疲弊する教育現場=三木陽介(前橋支局・前東京社会部)

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教員は子ども一人一人へのこまやかな対応が求められる=岡山市の小学校始業式で7日、瀬谷健介撮影 拡大
教員は子ども一人一人へのこまやかな対応が求められる=岡山市の小学校始業式で7日、瀬谷健介撮影

時代遅れの教職員配置

 小中学校の教員を取り巻く環境が深刻だ。心の病で休職している教員は毎年5000人前後で高止まりし、勤務時間も世界最長。その一方で、英語教育やいじめ問題など対応すべき課題は多様・複雑化している。少子化で子どもの数が減っているとはいえ、学校に人手が足りないのは明らかだ。教員定数を定める義務標準法は1958年、高度経済成長期に増え続ける児童生徒数に対応して教員数を確保するためにつくられた法律で、既に時代遅れになっている。実態に即した内容に抜本的に見直すべきだ。

 取材で出会った福岡県の公立中の50代の男性教員は連日午前7時に学校に出勤し、部活動を指導する。授業をし、休み時間は校内を巡回する。放課後は再び部活。夜は保護者への対応や書類作成に追われ、授業準備に入るのは午後10時過ぎだ。学校に寝袋を持ち込み泊まり込む若手教員もいる。「みんな疲弊するのは当たり前ですよ」

毎年5000人前後も精神疾患で休職

 教員を対象とする文部科学省の調査では、2014年度にうつ病などの精神疾患で休職した全国の公立学校の教員は5045人。全教員の0・55%でおよそ200人に1人の割合だ。20年ほど前から増加し、07年度以降5000人前後で高止まりが続く。

 西東京市で06年に市立小学校の新任の女性教諭(当時25歳)が自殺した。2年生の担任だった。5月に「児童が万引きを起こした」と知らせを受け、保護者に連絡すると「事実を示せ」と怒鳴られた。週10時間の初任者研修にリポートの提出。7月にうつ病になり、10月に自殺を図って2カ月後に亡くなった。東京地裁は今年2月、「全体として業務によって強い精神的、肉体的負荷があった」と公務災害と認定した。

 女性教諭は自殺を図る1週間前、福岡県に住む母にこんなメールを送っている。「こんな気分になるために一生懸命教師を目指したんやないんに……おかしいね」

 日本の教員の勤務時間は世界の中でも突出して長い。経済協力開発機構(OECD)による中学教員の13年の勤務状況調査によると、1週間当たりの勤務時間は日本が53・9時間と最長(参加34カ国・地域平均は38・3時間)。内訳をみると、部活動など課外活動指導が7・7時間と平均(2・1時間)の3倍超。書類作成など事務作業も5・5時間と平均(2・9時間)のほぼ倍。文科省の調査でも1日の平均勤務時間10時間36分のうち休憩はわずか14分。中学教員は部活の顧問をしていれば土日もつぶれる。

 「忙しいのは先生だけじゃない」。そう思われる方もいよう。しかし、同列に扱うのは違うと思う。相手は子どもたちだ。授業を理解しているか。いつもと様子が変わったところはないか。子どもたちの言動に絶えず気を配らなければいけない。対応を誤れば命に関わる。岩手県矢巾町では、自殺した中学2年の男子生徒がノートにいじめを訴えていたにもかかわらず教員がその深刻さに気づけなかった。広島県府中町では、誤った生徒指導で推薦入試の道が断たれたことを悲観した中学3年の男子生徒が自殺した。

場当たり的な「加配定数」増

 教員定数は学級数に応じて自動的に決まる「基礎定数」と、特例で配置する「加配定数」の合計だ。義務標準法は1学級の標準を40人(小1は35人)と決めているので、少子化で学級数が減れば基礎定数は減る。一方、加配定数はいじめ対策や特別支援教育、外国人の日本語指導など目的別に配置する枠で、毎年度の予算折衝でその数が決まり、都道府県が配置を要望する。89年度は定数全体の1・5%に過ぎなかったが、16年度予算では約1割に増えている。

 「対症療法」としての教員配置である加配定数が増え、基礎定数が減る構図は対応が場当たり的で、健全な教員配置とは言えない。

 日本の学校では他国に比べ外部人材の割合が少ない。学校で働く教職員総数に占める教員の割合は日本が82%に対し、米国は56%、英国は51%。日本では、福祉の専門家であるスクールソーシャルワーカー(主に子どもの家庭環境による問題に対処)やスクールカウンセラー(子どもの心の悩みに対応)、部活動指導員などの外部人材は国の補助事業や県の独自事業で活用されているが、大半が非常勤だ。常勤の外部人材を増やして教員と同様、人件費を国が恒久的に負担すべきだ。

 文科省は今年度からどのような人材を配置すればどんな効果があるか実証事業を始める。遅きに失した感もあるが、自治体の先進的な事例も集約し、より実態に即した効果的な定数の在り方を早急に打ち出す必要がある。

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