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<記者の目>被爆地・広島でG7外相会合=竹内麻子(広島支局)

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原爆慰霊碑に献花する(左から)岸田文雄外相、ケリー米国務長官、ハモンド英外相=広島市の平和記念公園で2016年4月11日、川平愛撮影 拡大
原爆慰霊碑に献花する(左から)岸田文雄外相、ケリー米国務長官、ハモンド英外相=広島市の平和記念公園で2016年4月11日、川平愛撮影

被爆者の声、耳を傾けて

 米国のオバマ大統領が被爆地・広島を訪問する可能性が高まっている。米軍が原爆を投下してから71年。実現すれば歴史的な出来事になる。この道筋を開いたのは、今月11日、主要7カ国(G7)外相会合で広島市を訪れたケリー米国務長官らの平和記念公園訪問だ。私はこの日、ケリー氏の行動を取材して人間味を感じ、「被爆者の思いが通じるかもしれない」と希望を見いだす一方、被爆者の声を直接聞かなかったことにひどく失望した。オバマ氏が広島で、米国の原爆投下という行為に今度こそ正面から向き合うことを願っている。

71年前のあの日、忘れ得ぬ苦しみ

 平和記念公園にある原爆資料館をケリー氏らが見学する様子は、私たち報道陣には公開されなかった。資料館には原爆の悲惨さを伝える被爆者の写真や遺品などがあるが、ケリー氏が何を見て、どんな表情をしたのか分からない。ただ、資料館の芳名録にこう残している。「世界中全ての人が、資料館の持つ力を目で見て感じるべきだ」

 ケリー氏は心を揺り動かされたのだろう。原爆慰霊碑に献花した後、岸田文雄外相に耳打ちし、急きょルートを変えた。警備の警察官らが大慌てで走り出す中、原爆ドームまで数百メートル歩き、松井一実市長に「どこで原爆が爆発したのか」と尋ねたという。この行動はとても人間的だと思った。この場所を訪れた人が抱く、原爆について知らなくてはならないという思いを、ケリー氏も共有したようだ。

 東京都生まれの私が初めて資料館を訪れたのは、父の転勤で広島市に移った小学5年の時だ。熱線を浴びて皮膚が焼けただれた被爆者の写真は恐ろしかったが、目をそらせなかった。友人の多くは被爆3世。それから、8月6日午前8時15分には、黙とうするのが当たり前になった。高校卒業まで広島で過ごし、東京の大学を卒業して新聞記者になり、初任地は希望した長崎で、今年3月までいた。

 長崎の被爆者、深堀好敏さん(87)を何度も訪ねた。陽気な人なのに、家族を捜して爆心地をさまよった16歳の時を振り返ると、昨日のことのように涙する。「私は70年前を生きているんです」。その言葉にはっとした。原爆がどれほど多くの人の人生を大きく変えたのか。被爆者の思いに触れ、私の中で原爆はリアリティーを増していった。

 ケリー氏や日本政府に言いたい。広島観光をする時間があったのなら、1時間、せめて30分でも被爆者と対面し、その声に直接耳を傾けてほしかった。記者会見でケリー氏は「被爆者の写真をどう思ったか」と問われ、「資料館は、大量破壊兵器のような爆弾が破裂すると何が起こるかということを知らしめた」と遠回しに答えた。被爆者と会っていたら、当事国の国務長官としてそんな一般論のような言い方ができただろうか。

原爆投下の事実、向き合うべきだ

 会合でまとめられた広島宣言には、日本政府の政治的なごまかしを感じる。英文では、広島と長崎の人々が経験したことを「human suffering(直訳では『人間としての苦しみ』)」としているが、外務省は「非人間的な苦難」と訳して和文の宣言とした。

 「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」共同代表の森滝春子さん(77)は「被爆者が訴える核の『非人道性』という言葉に意図的に似せた」と批判する。「被爆者の『二度とこの苦しみを繰り返してはならない』という訴えは、投下責任などの政治性を超え、核兵器の非人道性を伝えようという考えに基づいている。問題をそういう次元で受け止めてほしかった」と話す。

 私は、自分が受けてきた平和教育が、米国に恨みを抱かせるような内容でなくてよかったと思う。だからこそ、米国でも原爆を落とした事実、その結果に向き合ってほしい。日本の子どもが「原爆は恐ろしい、絶対に使ってはいけない」と感じるように、米国や世界の子どもにも感じてほしい。

 世界の人々の原爆に対する関心は低くない。広島の資料館への外国人入館者数は昨年度、全体の2割の33万人以上に達し過去最多を記録した。4月に広島支局に赴任し、久しぶりに平和記念公園を歩いて外国人の多さに驚いた。資料館によると、外国人の方が見学に時間をかける傾向にあるという。資料館で被爆体験を聞いた英国人女性(26)は「これまで学んだことと全く違う。絶対に広島に行くべきだと家族に勧める」と話す。

 オバマ氏の広島訪問は、核兵器のもたらす悲惨さに米国が向き合う第一歩となるはずだ。ぜひ被爆者の話を聞き、率直な感想を米国や世界に発してほしい。心からそう願う。

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