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社説

公布70年の節目に まっとうな憲法感覚を

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 戦後と寄りそうように長い歩みを刻んできた日本国憲法は、今年11月で公布から70年を迎える。

 振り返れば、憲法を巡る激しい論争がいくつもあった。それは、世界における日本の立場や国民意識の変化を反映するものだった。

 公布70年の節目に先立つ夏には、参院選挙がある。在任中の憲法改正に意欲を示す安倍晋三首相が、ここで改憲発議に必要な3分の2の議会勢力確保を目指している。

 選挙結果次第では、憲法改正が初めて現実味を帯びるかもしれない。そんな可能性をはらむ中で迎えた、今年の憲法記念日である。

内面には立ち入らず

 改憲問題は新たな段階に入ろうとしている。こういう時だからこそ、望ましい憲法論議とは何なのか、原点に戻って考えてみたい。

 首相や自民党などからは、改憲への積極発言が相次いでいる。長い歳月がたてば、国民に不都合な部分も出てくるだろう。憲法の手直し論議自体は自然なことである。

 ただ、今の政治や政治家に改憲論議を任せられるのかどうか、疑問を感じることが少なくない。

 集団的自衛権を行使可能にする強引な憲法解釈変更、報道の自由への圧力、1票の格差を最高裁から再三「違憲状態」と指摘されながら、真摯(しんし)に受けとめようとしない政党と国会。憲法への冷笑的な態度、無理解がはびこっているからだ。

 憲法とは何か。その根本をゆるがせにしたまま、改憲発議権を持つ政治家が改憲熱をあおるのは好ましいことではない。それは、国家や社会の安定を損ないかねない。

 現行憲法は、敗戦の産物だ。戦前の日本は国民の思想を取り締まり、自由を窒息させ、戦争で多大な犠牲を強いた。そんな社会には戻らないという決意と希望を、国民は新しい憲法に見いだしたはずだ。

 取り入れたのは、西欧近代国家がよって立つ原理である。国家は倫理や道徳など個人の内面に立ち入らない。憲法は権力を縛る鎖、国民を守るとりで、という考えだ。

 歴史や文化の違いはあっても、同じ理念を大事にする国家として、日本は再出発した。国民がその憲法を70年間、育んできたのだ。

 だが、自民党の改憲論の基盤となる憲法改正草案は、立脚点が違う。敗戦で押しつけられた憲法を自分たちで書きかえたいという、戦後レジーム脱却論が基調である。

 改正草案の中でとりわけ目につくのは、現行憲法の土台となっている基本的人権の規定に手を入れ、個人の自由や権利よりも公益・公の秩序を優先させていることだ。

 その理由を自民党のQ&A集は、憲法には西欧の天賦人権説に基づくものが散見されており、日本の歴史や文化、伝統を踏まえたものに変えることも必要だ、とする。

 歴史や伝統は確かに大切だ。しかし、国境や国籍を超える基本的人権の理念よりも優先される歴史や価値観が、あるとは思えない。

 雇用不安や格差拡大で生活を脅かされる人が増えている。基本的人権の確立は道半ばである。憲法の価値体系を変えるような改憲案を示すより、積み上げてきたものをさらに拡充させる努力の方が先だろう。自主憲法論にとらわれ改憲に過度のイデオロギー色をつけるのは、国民本位の改憲論議とはほど遠い。

国論の分裂を招くな

 安倍首相は、改憲に慎重な考え方を「思考停止」だと語る。

 だが、憲法を巡る意見や論議のあり方は多様だ。改憲派か護憲派かという色分けは、もう古い。

 単純な構図に矮小(わいしょう)化し、対立をいたずらにあおる物言いは、いずれの政治家も慎むべきだろう。自分の正義だけを主張し、相手を否定する姿勢は、極論と極論の衝突に陥りやすい風潮を助長してしまう。

 3年前、改憲の発議要件を緩和する96条改正を政権が持ち出した時、私たちは反対し、「国会が審議を尽くして3分の2の合意を形成することと、その後の国民投票が補完しあって初めて、改憲は説得力を持ち社会に浸透する」と書いた。世論も96条改正を支持しなかった。

 改憲論議は性急さを避け、社会の広範な同意と納得を目指すのが本来である。憲法の掲げる理念を堅持しながら、多くの国民から理解を得られるものにするのがいい。

 それには、基本的人権の領域には入り込まず、衆参両院のあり方の見直しなど、代議制民主主義の質の向上につなげる議論に絞ってみるのも一案ではないか。自民党が改憲の入り口に考えている緊急事態条項の追加は、基本的人権の概念とぶつかる懸念が強く、適切でない。

 政治に求められるのは、何よりも国民本位の憲法論議であり、そのための優先順位を誠実に模索する態度だ。与野党はともに、憲法の持つ意味と重さを正しく受け止め、時間をかけ熟議を重ねてほしい。

 憲法は社会の安定のためにある。にもかかわらず、改憲論議が国論の分裂を招き、社会を不安定にしては本末転倒である。政治家のための憲法ではなく、国民のための憲法に。憲法の議論は、そのまっとうな感覚を持つことから始めたい。

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