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「面白い!読ませる!」と好評の読書欄。魅力ある評者が次々と登場し、独自に選んだ本をたっぷりの分量で紹介。

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中村桂子・評 『がん哲学外来へようこそ』=樋野興夫・著

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 (新潮新書・756円)

相手のために自分の時間を使う

 「白衣も聴診器も身に着けていません。パソコンも、ノートも、ペンも持ちません。テーブルの上にはお茶だけ。それは、ここが対話の場だからです。私自身がひとつ心がけているのは『暇(ひま)げな風貌』です」。この「私」は、長い間がんの診断と研究に携わってきた病理医である。がん手術で切り取られた臓器や、がんで亡くなった方の遺体の臓器を顕微鏡で見てがんの実態を調べるのが病理学。時には手術の最中に切り取られた臓器の一部についての判断をする迅速診断もある忙しい仕事だ。そのような仕事をしてきた著者が、「お茶を前に暇げに坐(すわ)る」ようになったのにはきっかけがあった。

 アスベストが原因で起きる中皮腫や肺がんが、それを扱う企業で多発していることが明らかになったのが二〇〇五年。優れた鉱物繊維としてなじみ深いアスベストの危険性を知り驚いたことを思い出す。すばらしい冷却剤や洗浄剤として用いられてきたフロンが地球環境問題を起こすなど、技術はいつも複雑なものだ。横道にそれたが、中皮腫の早期血液診断の方法を開発していた著者はこのニュースに関心を持ち、中皮腫の外来がないことに…

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