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紙面審ダイジェスト

震災関連死が匿名なのはなぜ

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 紙面審査委員会は、編集編成局から独立した組織で、ベテラン記者5人で構成しています。読者の視点に立ち、ニュースの価値判断の妥当性や記事の正確性、分かりやすさ、見出し、レイアウト、写真の適否、文章表現や用字用語の正確性などを審査します。審査対象は、基本的に東京で発行された最終版を基にしています。指摘する内容は毎週「紙面審査週報」にまとめて社員に公開し、毎週金曜日午後、紙面製作に関わる編集編成局の全部長が集まり約1時間、指摘の内容について議論します。ご紹介するのは、その議論の一部です。

     以下に出てくる「幹事」は、部長会でその週の指摘を担当する紙面審査委員会のメンバーです。「司会」は編集編成局次長です。

    <4月28日>

    ■三菱自動車の不正の背景をもっと

     幹事 三菱自動車は4月20日、軽自動車4車種、計62万5000台で燃費試験のデータを不正操作して実際よりも燃費を良く見せていたと発表した。本紙は21日朝刊の1、2、6面、社会面で展開した。1面トップに置いたのは、本紙のほかは日経のみ。熊本地震の余震が続き、地震関連の記事が連日トップで扱われる中で、思い切った判断だったと思う。社会面の関連記事の中に、ネット上に「震災報道に隠れることができるかもという考えが見え隠れ」という書き込みがあるという記述があった。三菱自動車がわざとこの時期に発表したのかどうかは不明だが、本紙の扱いには「このニュースを地震報道に埋没させてはいけない」という意思が感じられ、よかった。

     また、車の燃費性能は国土交通省の審査で決まるが、その基になる「走行抵抗値」はメーカーの届け出数値が採用されるという。2面の記事で「三菱自はメーカーの言い値が採用されるこの仕組みを悪用した」と指摘し、見出しでも<燃費試験 「言い値」制度悪用>と強調したのは的確だった。一方、初報段階でいくつか不十分な点もみられた。一つは、三菱自動車が不正に手を染めた背景の説明。2面の記事で「近年の軽自動車は維持費の安さのほか、燃費性能が魅力で自動車各社は激しい開発競争をしている」「同社の軽自動車の燃費性能は競合他社よりやや見劣りするだけに『現場の焦りがあったのでは』(他社)との指摘もある」と書いたが、これだけでは物足りない。読売は2面で、軽自動車市場では「2強」のダイハツとスズキが6割の販売シェアを握っており、三菱自動車のシェアは約3%にすぎないことや、ダイハツやスズキは燃費が1リットルあたり30キロを超す車種が珍しくないことを具体的に説明した上で、「三菱自は上位メーカーに追い付こうと、開発現場が厳しい社内目標の達成を意識しすぎたことも不正の背景にありそうだ」と書いた。本紙は22日朝刊(2面)でこうした点を詳しく解説したが、一歩遅れた。

     21日朝刊の紙面には、不正が行われたのが名古屋製作所の技術センター(愛知県岡崎市)で、国交省の立ち入り検査の対象も同センターだったことが書かれていなかった。1面の本記に盛り込むべき基本情報だった。

     司会 経済部。

     経済部長 三菱自動車が非常に厳しい状態になるということで、1面トップに値すると考えた、熊本地震の発生から1週間という状況もわかっていた。情報編成総センター(見出し・扱いなどの編集担当)の判断は非常にありがたく思っている。三菱は軽自動車の燃費競争に負けていて、しかも開発投資が少ないのにダイハツとかスズキと並んだものを出そうとしたところに無理があったという事情については、紙面がからくて翌日回しにしてしまった。一番の疑問のところなので、当日取り上げるべきだった。

     司会 社会部から補足はあるか。

     社会部長 経済部は記者会見の後半では記事を書いていた。社会部も記者会見を聞いていたが、名古屋製作所の技術センターというのは会見の後半部分で出てきた。社会部の記者が聞いて経済部に伝えたがすでに締め切り後で、ゲラ直しのところで削られたと思う。社会面では名古屋製作所の社員のコメントを取っていたので、そういう意識はあったが、注意力が不足していたと思う。

     司会 情報編成総センター。

     編集部長 夕方に飛び込んできたニュースで、当初は中身がよくわからなかった。その後、日産自動車からの指摘で不正が発覚したと判明したため、過去にもリコール隠し問題を起こしていたのに自浄作用がないと判断して1面トップにした。社長が会見するというのも深刻度がかなり高いし、会社の存続にも影響が出るという見立てもあった。ただ、熊本地震のニュースも大事なので、最終版では1面2番手だけれど横見出しにして重要だということをアピールした。悩みながら作ったのは事実だった。

    幹事 判断はよかったと思っている。

    ■震災関連死が匿名なのはなぜ

     幹事 熊本地震による死者は49人、安否不明は1人、震災関連死は14人にのぼっている(4月26日現在)。発生から1週間を迎えた21日朝刊対社面では、亡くなった全員の名簿を自治体別に掲載し、うち25人は顔写真を付けた。一方、震災関連死は、16日に致死性不整脈で死亡した益城町平田の坂本征男(せいお)さん(77)について、家族への取材を元に「震災関連死の疑いがある」と書いた以外は、ほとんどが住所と年齢のみで実名は出てこない。18日にエコノミークラス症候群による死亡が初めて確認された熊本市西区の51歳の女性は匿名だった。宇土市の高齢者施設で18日に亡くなり、震災関連死と判明した坂口新吾さん(89)は、26日朝刊で本紙のみ実名にした。

     家屋倒壊や土砂崩れなど震災の直接被害によって死亡し、警察による検視を経たケースは実名で発表されるため遺族や関係者への取材が可能で、生前の人となりを紙面で紹介することができる。それ以外の避難生活による体調悪化やエコノミークラス症候群などが原因の震災関連死はほとんど匿名になっている。震災関連死と認定するかどうかは市町村が最終判断し、正式に認められれば直接死と同様に最高で500万円の災害弔慰金が遺族に支払われる。東日本大震災でも、津波や家屋倒壊による犠牲者は実名報道し、震災関連死については個別の取材で判明した以外は匿名だった。同じ震災による犠牲者について、実名と匿名に分かれるのはなぜか。現場での判断はどうなのだろう。

     司会 社会部。

     社会部長 どちらも震災による死者なので、なるべく名前を報道するよう努力している。直接亡くなった方については警察が検視して、すべて実名で発表されている。一方で震災関連死については行政から名前が発表されないので、記者が関係者に取材して名前を確認している。取材でわかった人については実名で報道しているが、なかなかわからないので匿名にせざるを得ないという状況がある。関連死の方についても取材を進め、実名がわかった方については報道していきたいと思っている。

     幹事 限られた記者で取材している中で、難しいのではないか。

     社会部長 エコノミークラス症候群で最初に死者が出た時などは集中して取材したが、その後は一人一人追跡取材していくのは難しい。しかし、亡くなった方に迫るという努力はしていこうと思う。

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