心に直接届く「故郷への愛、戦争への怒り」 テミルカーノフ&サンクトペテルブルク・フィルの「レニングラード」
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【ジャパン・アーツ 広報宣伝部 寺沢 光子部長】
「この曲は、この指揮者と、このオーケストラで聴きたい」「この曲は、この指揮者と、このオーケストラが演奏する意味がある」。数多くのコンサートが行われている中でも、特にアーティストとプログラムにこだわりたい、この組み合わせだからこそ聴いていただきたいと、というコンサートがあります。
ユーリ・テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団(旧:レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 通称=レン・フィル)によるショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」。6月2日にサントリーホールで行うこのコンサートは、まさにそのような“決定版”。聴き逃さないでいただきたいアーティストとプログラムの組み合わせといえるでしょう。
この曲のタイトル「レニングラード」は、今のサンクトペテルブルク。ショスタコーヴィチがナチス・ドイツによる「レニングラード900日封鎖」のさなかに、愛する故郷とその市民のために書き始めた作品です。連日の襲撃、飢えと寒さで多くの犠牲者が出て、古都サンクトペテルブルクの街は壮絶極まりない状況下の1942年、カール・エリアスベルクの指揮によって初演されました。詳しくは、ひのまどか著「戦火のシンフォニー: レニングラード封鎖345日目の真実」をぜひお読みください。
(※編集部注:ショスタコーヴィチの交響曲第7番のお披露目は戦時下であったためソ連各地でドイツ軍の攻撃をかいくぐるようにゲリラ的に行われた。初めての公開演奏は1942年3月5日または29日、臨時首都のクイビシェフでサムイル・サモスード指揮、ボリショイ劇場管弦楽団によって行われた。同年7月7日にはエフゲニー・ムラヴィンスキーとレニングラード・フィルが疎開先のノヴォシビルスクで演奏。レニングラードにおける“公式初演”がカール・エリアスベルク指揮、レニングラード放送管弦楽団、現在のサンクトペテルブルク交響楽団によって同年8月9日に行われた)
テミルカーノフは、そのエリアスベルクを心から尊敬し、亡くなるまでその交流は続いたそうですし、ショスタコーヴィチとも自筆譜を贈られるなど篤い信頼で結ばれており、有形無形の多くのものを受け継いでいるに違いありません。
消え行く街のために何かできることを……と書いた作品、命を引き換えにしてまで上演にこぎ着けた奏者たちの思い、そこまでさせた街の状況――。“時代と場”と切り離すことができない、この“時代と場所”から生まれたとも言える作品を、頭の中だけではなく全身で知っているテミルカーノフが指揮する。
大編成のオーケストラによる80分を超える大作、ということを考えると、今回の演奏がいかに貴重なものであるかを分かっていただけるでしょう。
さらに、この公演がただ歴史的な意義だけで貴重なのではなく、その演奏は、現代の私たちに向けられたメッセージ――戦争への怒り、平和の願い――を、理屈ではなく心に直接訴えかけてくるでしょう。それと同時に、悲劇を打破し、それに打ち勝つ強さをも秘めた“音楽への信頼”も、感じることができるのではと思っています。
テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団が、ショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」を演奏するのは、6月2日のみです。
公演データ
【ユーリ・テミルカーノフ指揮 サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団 日本公演】
指揮:ユーリ・テミルカーノフ
ヴァイオリン:諏訪内 晶子(30日)
管弦楽:サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団
5月30日(月)19:00 サントリーホール
チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調Op.35
ショスタコーヴィチ: 交響曲第5番 ニ短調 Op.47
6月2日(木)19:00 サントリーホール
ショスタコーヴィチ: 交響曲第7番 ハ長調 Op.60 「レニングラード」