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幸せの学び

<その153> 演劇の発信力=城島徹

「イナバとナバホの白兎」の舞台(日置真光さん撮影)

 新緑の木々が夕暮れのシルエットとなって浮かび上がる野外劇場から、どこか遠いアジアの国を思わせる音の世界が広がった。それに合わせて躍動する役者の姿を見て実感した。「演劇には世界に向けて『平和』を発信する力がある」と。

     5月の連休、北鎌倉で寺の天井画の制作に励む画家と語り明かした後、在来線を乗り継いで西へ向かった。静岡県舞台芸術センター(SPAC)の「ふじのくに せかい演劇祭2016」で上演される音楽劇「イナバとナバホの白兎(うさぎ)」を見るためだ。

     古事記に書かれた「因幡(いなば)の白兎」と同じアジア起源の物語が海峡を渡り、北米大陸で神話として先住民に伝わった−−という文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースの仮説に、演出家の宮城聡SPAC芸術監督が触発されて制作した。

     非西欧文化の作品を集めたパリの国立ケ・ブランリー美術館が2006年に開館した際、ストロースの名を冠した館内劇場のこけらおとしに招かれて自作を上演した宮城さんは開館10周年の記念作品の制作を新たに委嘱されたのだ。

     かつて「ケ・ブランリーの素晴らしさに驚いた」と元文化庁長官(文化人類学者)の青木保さんが話していたことを思い出した私は、「創作演劇で仮説に応えようとした知性」の勝利を予感し、6月のパリにおける世界初演を控えたプレ公演を見ておこうと思った。

     駿府城公園の夜空に星がまたたき、ステージではイナバとナバホの神話世界を仮面の役者が演ずる1部、2部に続き、3部はそれらのルーツであるアジアへと時空を超えて民族楽器の響きがいざなう。重層的な言葉はバリ島の伝統芸能ケチャを想起させ、クライマックスに掲げられる「弓」が武器ではなく楽器と化し、祝祭空間は平和の祈りへと昇華する。

     昼の静岡芸術劇場では南アフリカの人種隔離政策下の差別行為への「赦(ゆる)し」をテーマに、地元出身の美術作家ウィリアム・ケントリッジさんが演出した「ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ」を見た。残虐なテロや紛争が地球を揺さぶる時代、こうした「平和の価値を問うメッセージ性のある演劇作品」に接する機会は首都圏でも増えている。

     昨年見た劇団チョコレートケーキの「追憶のアリラン」は日本統治時代の朝鮮が舞台だった。てがみ座の新作「対岸の永遠」は冷戦終結後のロシアの混沌(こんとん)が描かれ、その会場で大阪の演劇記者から「いま東京の若手女性脚本家たちが世界情勢を意識した重厚な作品を続々と書いている」と教えられた。現代の窮地を演劇が救う可能性を信じたい。【城島徹】

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