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社説

米大統領広島訪問 核なき世界へ再出発を

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 「憎いとか謝れとかじゃないんです。愛する人を原爆で失い、自分は生き延びた。申し訳ない。私は何をすればいいのか。あの恐ろしい出来事を繰り返さないこと、核兵器をなくすことだ。だから見ててね。そう思って生きてきた。恨みなんかない。死んだ人への使命感だけですよ」

 広島市の被爆者、小倉桂子さんは78歳の高齢ながら、年間1500人の外国人に英語で被爆体験を語る。被爆者の意見はさまざまだが、謝罪を求める声が強いとはいえない。

 被爆者の思いを米政府は長年、読み違えていなかったか。謝罪要求を過剰なまでに恐れ、被爆地に近づかなかったのではないか。被爆者は訪問を待っているのに−−。

「神話」越えた和解こそ

 そんな双方の「行き違い」は、もう終わりにしたい。

 27日、夕なぎの広島平和記念公園は歴史的な瞬間を迎えた。長身のオバマ米大統領が原爆慰霊碑に歩み寄り、花輪をささげて目を閉じる。現職の米大統領による初の被爆地訪問。被爆者を含む多くの日本人が70年余り待ち望んだ瞬間だ。

 米国内では反対・慎重論もあったが、さまざまな障害を乗り越えて広島に来たオバマ大統領の決断を評価したい。献花後の声明で核兵器全廃の必要性を改めて訴え、「ヒロシマ・ナガサキ」は人類にとって「道義的な目覚め」の出発点であるべきだと語ったことも理解できる。

 式典では涙ぐむ被爆者を大統領が笑顔で抱擁する一幕もあった。被爆者との対話にもっと時間を割き、声明では具体的な提案も欲しかったが、70年余に及ぶ日米のわだかまりは解消の方向へ向かいそうだ。この日を「核兵器のない世界」への新たな出発点と考えたい。

 米国の歴代政権は被爆地訪問を一種のタブーとした。1945年、広島と長崎への原爆投下を命じたトルーマン大統領は、原爆使用が終戦を早め「非常に多くの米国の若者(兵士)の命を救った」と語った。

 2007年にはブッシュ前政権の高官が、原爆は連合国側の数十万人の命と数百万人の日本人の命を救ったとの見方を示した。だから謝る必要も、被爆地訪問の必要もないということなのだろう。

 だが、その一貫した主張に一面の理があろうと、人類史上初めて使われた2発の原爆が数十万人の市民を殺し、多くの人々に深刻な後遺症と心の傷を与えた事実を消し去ることはできない。謝罪するかどうかは主に米国の問題だろう。だが、この事実を軽く見れば、米国の論理はどこまでも人道性を欠くのである。

 原爆投下に関する「神話」、米国の苦しい説明は、もう終わりにした方がいい。オバマ大統領が「核なき世界」構想を説き、「核兵器を使った唯一の国として米国は行動する道義的責任がある」と語った時点で「神話」は大きく揺れた。オバマ氏の広島訪問で「神話」を越えた新しい地平が開かれたと考えたい。

 戦争中の44年、ルーズベルト米大統領とチャーチル英首相は「管用合金」(原爆のこと)について、ドイツには使わず、日本には「熟考した上で」使うことで一致した。その背景には、米側の「神話」だけでは説明できない複雑な事情があろう。

 そんな歴史の闇についても日米は率直に意見交換すべきである。

オバマ後の日本の役割

 だが、「核なき世界」は遠い。米露関係は悪化したままで、中国が核軍縮に動く気配もない。核拡散防止条約(NPT)に加わらないインド、パキスタンの核軍拡も不気味だ。

 イランの核開発問題は決着を見たとはいえ、核兵器保有が確実なイスラエルとの衝突が懸念される。何より北朝鮮が核弾頭の小型化などを進め、国際社会を露骨に脅すようになったのは大きな不安材料だ。

 しかもオバマ政権は向こう30年で1兆ドルの巨費を投じて核兵器の近代化を進めるとされる。中露が対抗して軍拡競争に発展する可能性も無視できまい。オバマ氏がノーベル平和賞を受けた09年当時と比べて核廃絶の機運が衰え、世界が危険な様相を呈しているのは明らかだ。

 だが、オバマ大統領の広島訪問を単なる儀式にしてはならない。オバマ氏の任期はあと8カ月。大統領は残された時間を生かし「核なき世界」への足掛かりになる具体的なレガシー(政治的功績)を残してほしい。

 唯一の被爆国・日本の真価も問われよう。日韓の核武装を認めるトランプ氏(共和党)が次期大統領になれば、「核なき世界」構想は白紙に戻るかもしれない。「オバマ後」は日本が「核なき世界」への運動を主導する覚悟を持つべきである。

 憂慮すべきは、核をめぐる危機感と倫理観が国際的に薄れていることだ。NPTで核兵器保有を公認された5カ国(米英仏露中)は、その特権にあぐらをかき、核軍縮への努力を怠る傾向が目立つ。

 核兵器を持たない国々がNPTに見切りをつけ、核兵器禁止条約を作る動きが高まるのも無理はない。

 オバマ大統領の広島訪問を機に考えたい。私たちは核兵器による自滅をどう防げばいいか。必要なのは「人類」としての視点、学ぶべきは被爆者の「使命感」である。

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