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荒川洋治・評 『日本近代随筆選−1出会いの時』=千葉俊二、長谷川郁夫、宗像和重・編

 (岩波文庫・875円)

新しい見方へ導く文章の集結

 名家の随筆アンソロジー全三冊の初巻。文学者(夏目漱石ほか)、音楽家(宮城道雄)、科学者(湯川秀樹、中谷宇吉郎、石原純ほか)など各界四〇人、全四二編が集結する。以下書いたときの年齢も記す。発表の年または初収録の刊行年から、生年を引いたものだ。

 冒頭の、森鴎外「サフラン」(五二歳)は、「名を聞いて人を知らぬと云(い)うことが随分ある。人ばかりではない。すべての物にある」ではじまる。和本の辞書で知ったサフラン。子どものとき、父に聞く。「お父(と)っさん。サフラン、草の名としてありますが、どんな草ですか。」

 蘭医の父が、薬箪笥(だんす)の抽斗(ひきだし)から出して見せたのは生きた花ではなくて「干物」だった。最近になってサフランが売られているのを見つけ、球根を買い、土に活けて、鉢に水をやる。「これはサフランと云う草と私との歴史である」。物を知る経過をつづり、無縁と思われたものにも「接触点」がある、とする。単純な会話ひとつにも注意し、淡々と文章の目的を果たす。さわやかだ。すてきな文章だ。「サフランはサフ…

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