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<山口放送>25年間の取材を映画化 山奥の夫婦の暮らし、老い、最期
中国山地の山奥に2人で暮らしてきた老夫婦を25年にわたって取材したテレビ局「山口放送」(山口県周南市)が、ドキュメンタリー映画「ふたりの桃源郷」を製作し、今月、東京で上映が始まった。気の遠くなるほど長い時間をかけた取材で2人の人生を描き出した作品が、驚きを持って受け止められている。
山口県岩国市中心部から、つづら折りの道を車で約1時間かけて上った電気も水道もない山中で、田中寅夫さん、フサコさん夫婦は山や畑で育てた野菜を取り、湧き水で米を炊いて暮らしてきた。
地元の山口放送は1991年、当時70代だった2人の暮らしを報道番組で取り上げた。
95年に入社した佐々木聰(あきら)ディレクター(45)はその番組を見て、放送10年後に2人を訪ねた。80代になった夫婦が当時のまま生活していることに驚き、その後、不定期のシリーズで報道した。徐々に衰えて老人施設に入った後も時折、山を訪れる2人。2007年に寅夫さんが、12年にフサコさんがいずれも93歳で最期を迎える。
番組は山口県内のほか日本テレビ系列の「NNNドキュメント」で放送され、視聴者の反響を呼んだ。局に届く手紙やメールには、自分の人生と重ね合わせた内容が多かったという。
佐々木ディレクターは「自分が大事にするものを見つめ直すきっかけにしていただければ」と話す。03年に大阪から、両親が生活した山のふもとに移り住んだ田中さんの三女夫婦の暮らしを中心に、今後も取材をしていくという。ドキュメンタリーは四半世紀を超えてなお続いていく。
東京・中野の「ポレポレ東中野」で上映中。6月以降、山口県などで順次上映する予定。【青島顕】