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社説

首相の増税再延期 税の議論をゆがめるな

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 税と社会保障の将来に大きな影響を与え、これまでの首相の発言ともつじつまが合わない判断だ。

 安倍晋三首相は来年4月に予定されていた消費増税を2年半後に先送りする方針を固めた。首相は通常国会の閉幕間際に政府・与党内で調整を急いでいる。

 2014年11月18日、増税の1年半延期を決め衆院を解散して民意を問う際に首相は記者会見し、「再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりと断言いたします。必ずや(増税可能な)経済状況をつくり出す」と語っていた。

発言の重みはどこへ

 それが1年半を経て、180度近い方針転換である。首相発言の重みやこれまでの国民との約束はどうなってしまうのか。しかも、その根拠は著しく説得力を欠いている。

 第一の問題点は、海外の経済状況に再延期の責任を転嫁しようとしていることだ。

 首相は主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で世界経済が「リーマン・ショック前に似ている」との認識を示し、「危機に陥る大きなリスクに直面している」と記者会見で強調した。再延期の判断基準を首相は「リーマン・ショックや東日本大震災のような事態」と説明してきた。増税再延期の地ならしをサミットで図ったとみられている。

 だが、首相の認識は、ほかの首脳とは異なる。英仏の両首脳は「危機ではない」と述べていた。サミットの首脳宣言も「新たな危機に陥ることを回避する努力を強化する」との表現であり、首相の言いぶりとは落差がある。

 むしろ問題があるとすれば、国内の経済状況の方だろう。デフレ脱却の道筋は見えず、日本経済は本格的な回復に至っていない。

 増税できないほど状況がよくないというのであれば、まずはアベノミクスの失敗を率直に認めるべきだ。海外要因を挙げて正当化しようというのでは、議論が逆立ちしている。

 第二の問題点は、増税再延期がもたらす社会保障への影響だ。

 税率を10%に上げることで、政府は低所得年金受給者への給付金など社会保障の充実に1・5兆円程度をあてる予定だった。子育て支援など「1億総活躍社会」のプランもまとめたばかりだ。保育士や介護士の賃金改善だけでも2000億円規模の財源が必要だが、確保はますます難しくなる。

 財政再建への影響も懸念される。国と地方の借金は1000兆円を超え、先進国で最悪の水準だ。政府は「基礎的財政収支の20年度黒字化」を目標としているが、再延期すると達成は一段と厳しくなる。

 今回の判断は首相が憲法改正のステップと位置づける参院選直前のタイミングで下された。14年の衆院解散と同様、税制を政権維持の道具に使う構図が繰り返される。

 アベノミクスの効果が暮らしに反映されず、多くの国民の生活実感が厳しさを増しているのは事実だろう。毎日新聞の最新の世論調査では10%への引き上げについて66%が先送りに賛成している。

 消費税率を2段階で10%に引き上げる道筋は野田佳彦内閣時代の12年、自民、公明、民主による3党合意に基づく。選挙で逆風を呼びやすい増税問題を政争から分離することで、社会保障の安定財源を確保しようとする政治の知恵だった。合意当時の世論調査では、44%の人が関連法の成立を評価している。

政治への信頼を損なう

 それが今、首相は再延期方針を固め、民主党を継承した民進党も来春の増税に反対している。合意の枠組みはもはや実質的に崩壊寸前と言っても過言ではあるまい。

 危機的な財政と、急増する社会保障の需要に対処するためには、安定財源が欠かせない。私たちは来春に増税を予定通り実施できる環境整備の必要性を主張してきた。

 10%への引き上げと同時に、食料品など生活必需品の税率を抑えるための軽減税率が導入されることが決まっている。低所得者の負担感がある程度、軽減されることが期待されている。

 ところが首相は国民に消費税の意義を説くどころか、逆にマイナス面をあおっているようだ。

 首相方針通りに増税が2年半延期された場合、実施は19年10月となるため、同年の統一地方選や参院選以降となる。しかも首相の自民党総裁としての任期は延長されない限り18年秋で切れるため、増税時期が任期を越えてしまう。国民の政治への信頼を損ないかねない無責任な対応である。

 首相方針は与党内で十分な議論を経ないまま、いきなり示された。麻生太郎副総理兼財務相が首相の方針を聞いて難色を示し、再延期の場合は衆院を解散して民意を問うよう促したのも違和感の表れだろう。

 野党は強く反発している。4野党は、再延期は経済失政が原因として首相に退陣を求め、内閣不信任決議案の提出を検討するなど通常国会は最終盤で緊迫している。

 国民の生活に大きく影響する消費税に関する基本方針の転換だ。徹底的に議論を尽くすべきだ。

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