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岡崎 武志・評『我が詩的自伝』『カレーライスの唄』ほか

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◆『我が詩的自伝』吉増剛造・著(講談社現代新書/税抜き900円)

 「今夜、きみ/スポーツ・カーに乗って/流星を正面から/顔に刺青できるか、きみは!」と初期詩編「燃える」で謳(うた)ったのが詩人の吉増(よします)剛造。現代詩のスターで、つねに我が身を、表現世界と向き合わせ、時代を切り拓(ひら)いてきた。

 語りによる『我が詩的自伝』は、1939年生まれによる戦時下の体験から始まり、現在に至る内面の動きを映し出す。「青虫みたいにして受動的統合失調症と引きこもりが専門」の青年が、同時代の表現者たちと出会い、揉(も)まれ合い、吉増剛造を作ってきた。

 著者の姿勢は、頻出する「非常時」という言葉で要約される。「死ぬか生きるかで書いてたもん」。詩は「すなわち、非常時そのものだった」というふうに。あるいは「キーパーソン」。岡田隆彦、島尾ミホ、中上健次、メカス、安原顯(けん)などが続々登場、詩人を螺旋(らせん)状に巻き込んでいく。

 代表作が随所に引用され、吉増の詩業を見渡す、という点でも重宝する一冊だ。

◆『カレーライスの唄』阿川弘之・著(ちくま文庫/税抜き950円)

 阿川弘之(2015年没)といえば、『雲の墓標』や評伝『米内光政』など戦争文学のイメージがあるが、一方で軽妙なユーモア文学を多数量産していた。

 『カレーライスの唄』はその一つで、1961年の新聞小説。巨人・大鵬・卵焼きの時代を背景に、六助と千鶴子という若者コンビが、軽やかに走っていく。倒産した弱小出版社の社員だった2人は、その後も縁が切れず、カレーライス店を始めようと考える。

 東京・神田の学生街に、辛くて安くてご飯のお代わり自由の「ありがとう」を無事開店する時、もう残り100ページを切っている。2人に立ちはだかる壁を乗りこえ、夢の実現に奮闘する若者を描くのが本書の主眼だ。

 広島出身の六助は原爆体験者で、戦犯の父親は外地で死刑に。「戦争は、平凡な人間を、神様のように純粋にもするかわり、けだもののように狂暴にもしてしまいます」と登場人物の一人が言う。隠し味もピリリと効いている。

◆『見る前に跳んだ 私の履歴書』倉本聰・著(日本経済新聞出版社/税抜き1600円)

 名作「北の国から」の脚本家・倉本聰が、わが半生を『見る前に跳んだ』で振り返る。1月1日生まれ、疎開、父の死、東大入学、そしてニッポン放送入社。波に乗る倉本が、NHK大河ドラマ「勝海舟」降板事件で挫折。北海道へ逃避行した。「美しく厳しい大自然の中で暮らす人たちと接して」、都会生活者の目からウロコが落ちた。「北の国から」は、こうして生まれた。電気のない家。純が驚いて言う。「夜になったらどうするの?」。「夜になったら眠るんです」と五郎。いいなあ。

◆『住宅建築家 三人三様の流儀』中村好文・竹原義二・伊礼智/著(エクスナレッジ/税抜き1900円)

 中村好文・竹原義二・伊礼智は、個人住宅の設計を得意とする。『住宅建築家 三人三様の流儀』で、その考え、奥義が垣間見られる。「最初から思っているよりも、ひと回り小さく建てることを提案する」竹原。「空気や熱などの見えないものまできちんとデザイン」する伊礼。住宅建築家は「『人が好き』『人の暮らしが好き』『人の住まいが好き』でないと、とうてい務まる仕事ではないのです」と中村。3人が設計した住宅がカラー写真で紹介され、見ているだけで心が和む。

◆『鉄道の聖地 京都・梅小路を愉しむ』芦原伸・著、天夢人・編(PHP研究所/税抜き900円)

 京都駅の南に、蒸気機関車を見学できる施設があった。知る人ぞ知る名所だったが、今年4月、拡充してリニューアルされ、「京都鉄道博物館」として生まれ変わった。国内最大級の鉄道博物館である。芦原伸著、天夢人(てんじん)編『鉄道の聖地 京都・梅小路を愉しむ』は、その全貌と、味わいどころを伝える。現存最古のSLはもちろん、世界初の寝台電車、貨物用として開発され、のち寝台特急も引いた列車など、マニアならずとも目が輝く。鉄道の歴史、京都駅についてのウンチクもあります。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2016年6月19日号より>

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