(岩波書店・3024円)
御多分にもれず、私も『論語』というのはかび臭い修身の教科書のようなものだと思い込んで、敬遠してきた。孔子の説く忠孝といった徳は確かに立派なものかもしれないが、封建的で現代にはそぐわないのではないか? しかし、中国文学者、井波律子の『完訳 論語』を読んで、そういった孔子像が一変した。『論語』の注釈は古代中国から近代の日本まで、膨大に積み重ねられてきて、今ではその全体像を見渡すことさえ難しい。井波版『論語』は、後世の注釈と研究の厚い拘束衣にがんじがらめになってしまった孔子を解放する試みである。そして、孔子が賞味期限の切れた聖人ではなく、現代的な意味を持つ思想家として生き返ってくるさまは、感動的である。
本書で『論語』全編にほどこされた訓読、清新な現代日本語訳、そして博識でありながらそれを振り回すことのない明快な解説を通して描き出される、思いがけず親しみやすい生身の人間の姿には、いくつもの際立った特徴がある。第一に、孔子は堅苦しい忍従の道徳を説く厳格主義者などではなく、権力者を恐れず諫(いさ)めることのできる批判的知識人だった。有名な「民(たみ) 信無(しんな)くんば立(た)たず」(「民衆は信頼…
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