特集

Listening

話題のニュースを取り上げた寄稿やインタビュー記事、社説をもとに、読者のみなさんの意見・考えをお寄せください。

特集一覧

Listening

<記者の目>2016参院選 「安倍1強」に=松田喬和(特別顧問)

自民党本部で、高村正彦副総裁(左)、谷垣禎一幹事長(右)とともに満足げな安倍晋三首相=10日、藤井太郎撮影 拡大
自民党本部で、高村正彦副総裁(左)、谷垣禎一幹事長(右)とともに満足げな安倍晋三首相=10日、藤井太郎撮影

「分配」から「分担」の政治へ

 10日投票の参院選は「自公、改選過半数」「改憲勢力3分の2を超す」と、新聞各紙が報じた各党獲得議席予測にほぼ近い結果になった。

 投票前、予測記事の真偽を確かめるべく、安倍晋三首相の街頭演説が行われる東京・渋谷駅北口の「ハチ公前」に出かけた。登壇予告の30分以上も前から、スクランブル交差点周りの歩道は黒山の人だかり。歩行者用通路の混み具合は、近年の選挙で勝敗のカギを握る無党派層の動向と合致すると考え、これまでも心掛けて観察してきた。その点、今回の与党勝利は、予測範囲内といえる。

 しかし、宣伝カー上の首相は争点のはずだった持論の改憲には触れず、「今回の最大のテーマは経済政策」と、高度経済成長路線を突っ走った池田勇人首相張りの論を展開した。時折、民主党政権時に比較して経済指数がいかに好転したかを叫び、アベノミクスの優位性を強調したのが、最大の安倍カラーだった。

 一方、民進党の岡田克也代表が改憲論点外しに「肩すかしを食った」と、首相を批判したが、改憲阻止は共産党を含む野党間の選挙協力に、格好なテーマだったことも看過すべきでない。他の有益な論点は提示できなかった。

 戦後政治の生き証人、中曽根康弘元首相に選挙戦の印象を尋ねると、「55年体制の終焉(しゅうえん)で革新は消えた上に、今回は改革も争点になっていない」と、未来を語れない政治の現状を嘆いた。

「強さ」は本来何に使うべきか

 今回、憲法改正発議の要件、3分の2を確保したとはいえ、公明党との憲法観のすり合わせもこれからだ。公明党支持団体の創価学会の池田大作名誉会長は、2002年8月の本紙「発言席」に寄稿した「憲法に『環境権』の規定を」で、「憲法には、世界に誇る『平和的生存権』が謳(うた)われている。その堅持とともに、いうなれば『共生的生存権』として、環境権を確立することが望ましい」とし、「第9条に象徴される平和主義と並び立つもの」と高く評価した。それだけに自公の合意案が注目される。

 参院選を経て、自民党と安倍首相の「ダブル1強」状況はさらに強化された観が強い。この「強さ」は本来何に使うべきなのか。戦後政治史を振り返り、考察したい。

 1955年、保守合同で誕生した自民党は志向する政治潮流でも、政治手法でも二分されていた。党是に改憲を掲げながらも実現に至らないのは、護憲派も少なくはないからだ。政治手法としても、池田政権が掲げた「寛容と忍耐」に象徴される「コンセンサス政治」は、「穏健保守」と表裏一体だった。他方、岸信介首相が60年の安保国会で見せた、数で押し切る「多数の専制」政治への支持勢力も、少なからず混在している。

 55年体制と並走していた高度成長がかなわなくなると、当然のことながら財源の調達も困難になる。自公接近の一つの要因でもあり、自民党が得意とした「分配の政治」の効用は大いに薄れた。しかも、急速な高齢化と人口減で、社会保障制度改正も後手に回り、新たな財源を求めざるを得ない「分担の政治」の時代が一気に到来した。

 「分担の政治」を円滑に実施するには、強力な政治力とともに、「コンセンサス政治」が求められている。消費税導入を実現したのが調整型政治家の典型、竹下登首相だった一例を見ても明らかだ。

 ところが、選挙制度改革で自民党の多様性を保証していた派閥が衰退。代わって党執行部の拘束は強まり、官邸主導政治も常態化して党首を兼ねる首相の権限は増し、「コンセンサス政治」は一段と困難になった。その上、参院選も含めて党営選挙色が濃くなり、トップの違いが政党間の差別化を図る材料になった。それだけに、国民的人気がトップの必須要件になった。「安倍1強」も国民からの高い支持率が源泉といえる。

国民に負担を求める覚悟を

 本紙の参院選候補者アンケートで、消費税率10%への引き上げについての対応を自民党候補62人に聞いたところ、「法改正し、引き上げを延期または中止」が89%。「現行法に従い、引き上げるべきだ」は3%だった。一方、同じ質問を有権者にも答えてもらい、政党・候補者との一致度を測る「毎日新聞ボートマッチ・えらぼーと」では、「延期、中止」が59%で、「現行法に従い、引き上げる」は33%だった。

 国民の方が、負担への覚悟は固まっている。せっかくの高い人気の政権下でも、「分担の政治」を国民に働きかけるべき覚悟が、政治家サイドでは整っていないようだ。「分担の政治」への転換を要望したいが、「分担」には国民を含めたコンセンサスが前提になる。欧米に見られる社会の亀裂はぜひとも回避されるべきだ。

コメント

※ 投稿は利用規約に同意したものとみなします。

あわせて読みたい

注目の特集