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岡崎 武志・評『エンタツアチャコのぼくらは探偵』『プリニウス 完全ガイド』ほか

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◆『エンタツアチャコのぼくらは探偵』上田賢一・著(河出書房新社/税抜き1700円)

 エンタツアチャコといえば、伝統芸能の「万才」を「漫才」と改め、スピーディーでモダンな話芸スタイルを確立した功労者。昭和初年に大人気となったが、コンビでの活動歴は短い。

 上田賢一『エンタツアチャコのぼくらは探偵』は、そんな二人を探偵役に、昭和初年の大阪を描くというのだ。陸軍がらみの金塊をめぐり、ホテルボーイが殺害された。大手製薬会社が進出した映画産業と犬の毒殺など、次々起こる怪事件。「さいな、むちゃくちゃでござりまするがな」

 千日前はキネマタウンでにぎわい、市民の寄付で大阪城は再建とモダン大阪は活気づく。しかし、同時に満州事変を皮切りに、きな臭いにおいが……。

 貧乏長屋の探訪記者・松之助、輸入品卸店経営者のローレンス君、ヨシモトの大将・正之助と脇もばっちりと固め、あの漫才コンビが縦横に活躍し、ついには魔都上海(シヤンハイ)へ飛ぶ。もちろん会話はベタ一面の大阪弁。続編を乞う。

◆『プリニウス 完全ガイド』ヤマザキマリ、とり・みき、「新潮45」編集部/編(新潮社/税抜き780円)

 大ヒット作『テルマエ・ロマエ』で、古代ローマと現代日本を地続きにしたヤマザキマリが、とり・みきと組み、『新潮45』で連載中の『プリニウス』。読書人の間でも話題になっている。

 このたび最新刊の発刊にあわせ、作られたのが『プリニウス 完全ガイド』(「新潮45」編集部編)。奇想の大著『博物誌』を記し、博物学者にして海軍総督だったプリニウスとは、いったい何者か?

 暴君ネロの支配下で、陰謀と欲望渦巻く帝国の遺跡を、著者二人が旅する。主に緻密な背景を担当するとり・みきは、初の来訪ながら「描き覚えのある風景ですね」とひと言。それだけ、ヤマザキの作り出した世界はリアルなのだ。

 前半のガイドは写真多数。後半に、人物紹介をはじめ、出口治明、青柳正規、夏目房之介らも参加し、作品の魅力に徹底して迫る。二人の共同作業のさまが、つぶさに見て取れるのもうれしい。読者の心も古代ローマに……。

◆『絵はがきで楽しむ歴史散歩』富田昭次・著(青弓社/税抜き2000円)

 富田昭次『絵はがきで楽しむ歴史散歩』を読み(見?)出したらページをめくる手が止まらない。観光名所以外に、あらゆるものを記録した、絵はがきというメディアを再評価すべきであろう。かつて一帯が練兵場だった明治の青山。京橋から銀座通りを望む一枚には、開業したばかりの松屋呉服店が見える。大正末期の京都・渡月橋(とげつきよう)畔には、なんと「自動電話」、つまり公衆電話が! 太刀山は大正、男女ノ川(みなのがわ)は昭和の横綱と、大相撲人気も絵はがきが証言する。一部カラーページもあり。

◆『風景』瀬戸内寂聴・著(角川文庫/税抜き520円)

 生前会うことのなかった坂口安吾。安吾賞を受賞し、その子息・綱男の案内で、新潟を文学散歩する「私」。安吾のデスマスクを見て、思わず胸元に潜めた写真に手をやる。それは昔の恋。写真の男性から、安吾を教えられたのだった。以後、『堕落論』は聖書となった。かつて燃えた破滅的な恋と安吾をからめた「デスマスク」ほか、瀬戸内寂聴が追憶する情愛の短編集が『風景』。道ならぬ恋、得度を準備する心の動きなど、いずれも自伝的世界を扱い、泉鏡花文学賞を受賞した。

◆『江戸の災害史』倉地克直・著(中公新書/税抜き860円)

 火山の噴火に大震災、そして豪雨と、平成は天変地異に見舞われる時代、と思ったら、徳川の時代はもっと大変だった。江戸市中を焼き尽くした明暦の大火、富士山の噴火に、度重なる飢饉(ききん)、蔓延(まんえん)する疫病に手を焼いた。倉地克直は『江戸の災害史』で、江戸を大災害が集中した史上稀(まれ)な時期として着目、先人の防災意識とシステムを検証する。慶長期には、災害の経験を記録し伝える努力があった。記録にすでに「津波」の文字が見える。災害が政治と人民、都市を鍛えたことが本書でわかる。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2016年7月24日号より>

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