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【東京交響楽団 広報本部 山口翔梧】
名曲を繰り返し聴くのも良いですが、未知の音楽を知る喜びには何にも代えがたいものがあります。今回が日本初演となるガヴリイル・ポポーフの交響曲 第1番も隠れた傑作の一つ。どんな名曲も繰り返し上演されて初めて人気を獲得したことを考えれば、「ラフ2」や「チャイ4」のように「ポポ1」と呼ばれ愛される時代が来るかもしれません。
プロコフィエフに絶賛された才能
1904年、ロシアに生まれたポポーフ。音楽院で親しくなった2歳年下のショスタコーヴィチは生涯の盟友であり、ともに若き天才として早くから注目されていました。作曲家からの評価も高く、プロコフィエフに「若い作曲家では、ショスタコーヴィチとモソロフ、そしてポポーフの才能が群を抜いている」と言わしめるほどでした。
音楽院でポポーフは「新音楽文化」と称するサークルを組織します。これは他の音楽家から「ブルックナー・マーラー協会」と揶揄(やゆ)されたように、当時のトレンドであるブルックナーやマーラー、リヒャルト・シュトラウスの管弦楽作品の研究を活動の主とするものでした。しかし、その一方でストラヴィンスキーやヒンデミット、シェーンベルクやクルシェネクなど最先端の作品の分析も行い、こうした活動の中でポポーフは自らの音楽の方向を定めていきます。
野心的なシンフォニーと映画音楽
そしてようやく完成させたのが、この交響曲 第1番でした。尖(とが)ったサウンドが交差する第1楽章、ほの暗く叙情的な第2楽章、そして打楽器群のリズムに乗って進む第3楽章のスケルツォと全編を通して刺激的な音響が広がります。
当初は体制側からの後押しもあり、期待の高かったこの作品。しかし、初演後にその対応は一変し、ソビエト当局は「形式主義」として翌日には国内での演奏禁止を言い渡しました。それから国外では何度か演奏されたものの、激動の時代の中でポポーフの名は次第に忘れられてしまいます。
そうした状況の中でもポポーフは交響曲を6番まで書きましたが、当局の弾圧から逃れるべく作風を一部軟化させたために、かつての覇気は影をひそめてしまいました。その点からも、思うままに書いたこの交響曲第1番はポポーフの意思の結晶であり、当時のソビエトを映し出した記念碑的な作品といえるでしょう。
ショスタコーヴィチやハチャトゥリアンがそうだったように、映画音楽の分野でも活躍したポポーフ。プロコフィエフが音楽を担当した「アレクサンドル・ネフスキー」でも当初エイゼンシュテイン監督はポポーフに目をつけていたといいます。映画音楽をベースに交響曲 第2番「祖国」、交響曲 第3番「英雄的」を書き上げる一方で、交響曲 第1番の前衛的な響きを映画に生かしていくのでした。
コンサートの聴きどころ
4管編成のオーケストラから繰り出されるfffから弦楽器のppppまで、コントラストの鮮やかなポポーフの交響曲。飯森範親のダイナミックな指揮でお楽しみください。前半におおくりするのは、同じロシアの作曲家ラフマニノフのピアノ協奏曲 第2番。ドイツのエコー賞をアリス=沙良・オットと分け合ったオルガ・シェップスは、繊細さを持ちながらも燃焼度の高い演奏に定評があります。ラフマニノフとポポーフ、作風が全く違う2人を比べて聴いてみると、きっとロシア音楽の広大な世界を実感することでしょう。
もっと知りたい方は…
作曲家が遺した日記から見えてくるショスタコーヴィチとの友情。高久暁氏によるエッセイを東京交響楽団公式サイトに掲載中です。詳しくはコチラ↓
公演データ
【東京交響楽団 第643回定期演奏会】
8月4日(木)19:00 サントリーホール
指揮:飯森範親(東京交響楽団 正指揮者)
ピアノ:オルガ・シェップス
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番
ポポーフ:交響曲 第1番 【日本初演】
<料金>
S¥7000 A¥6000 B¥5000 C¥4000 P¥2500
<チケット>
■TOKYO SYMPHONYチケットセンター(平日10時〜18時 土日祝休み)
Tel. 044-520-1511
■TOKYO SYMPHONYオンラインチケット