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<記者の目>見逃される子ども虐待死=尾崎修二(前橋支局)

虐待する母親を自宅に立ち入った児相職員が止める訓練=長崎県警察学校で昨年9月 拡大
虐待する母親を自宅に立ち入った児相職員が止める訓練=長崎県警察学校で昨年9月

全死亡例、調べる制度を

 子どもの虐待死が後を絶たない。自治体からの報告に基づく厚生労働省の調べでは年間69〜99人が虐待で命を落としている。それでもこれらは「氷山の一角」に過ぎないという調査結果が今年3月、日本小児科学会から発表された。虐待で死亡した疑いがある子どもは推計で年間350人。学会は、多くの事例が見逃されている可能性があり、医師の知識不足や関係機関との連携不足が背景にあると指摘する。虐待死を埋もれさせず、救える命を救う態勢の構築が急がれる。

 日本小児科学会の調査では、虐待診断の経験を積んだ医師が、東京都や群馬県など4自治体で2011年に死亡した15歳未満(東京は5歳未満)の子どもの死亡診断書を調べた。その結果、7・3%に虐待の疑いがあった。この割合を、1年間に全国で亡くなる15歳未満の子ども5000人に当てはめると350人になる。厚労省の09〜13年度の集計は、年69〜99人(無理心中も含む)で、3〜5倍の開きがあった。これにはさまざまな要因が考えられる。

医師が知識不足、授業ない大学も

 まず、医師の知識不足だ。虐待に詳しい関東地方の小児科医は数年前、頭部外傷で死亡した2歳女児について、北日本の警察から診断記録の再鑑定を依頼されたことがある。頭部画像は、虐待で起きる症状の一つ「乳幼児揺さぶられ症候群」の典型だった。しかし、女児が搬送された時に診断した臨床医のカルテには、虐待を疑う記述はなかった。結局、警察が捜査に乗り出し、親族が逮捕された。この小児科医は「専門の脳外科医や小児科医が遠方の警察から再鑑定を依頼され、立件につながるケースは少なくない」と打ち明ける。

 厚労省の研究班によると、医学部を持つ大学を対象にした10年の調査で、児童虐待に関する授業をしていたのは回答のあった48大学のうち半数にとどまり、実施校も授業時間は平均20分間だった。

 さらに、医師が虐待を疑ったとしても、医師自身の消極的な対応や関係機関の連携不足という課題もある。

 厚労省研究班が全国の医師を対象に実施した調査(10〜14年度)では、医師が虐待死を疑った154例のうち、児童相談所への通告は4割どまり。医師が「確実に虐待」「可能性大」と判断した81例さえ、1割に当たる9例が警察に通報されていなかった。司法解剖された58例のうち、死亡時に子どもを診た医師と、解剖を担当した法医学者が情報交換しなかった例が40例。捜査機関が起訴したのは13例と、医師が虐待死を疑った事例の8%にとどまる。調査を担当した溝口史剛医師(前橋赤十字病院)は「情報共有のルールが未整備で、情報が医療機関、行政、司法で散逸している」と指摘する。

事後検証不十分、情報共有に課題

 事後の検証も不十分だ。08年施行の改正児童虐待防止法は、自治体に対し、死に至った経緯や背景を関係機関で共有して再発防止につなげる検証を義務づけている。だが、児童虐待防止に関する情報集約や研修をする民間機関「子どもの虹情報研修センター」(横浜市)の調査では、厚労省が発表した08〜11年度の虐待死413人のうち、検証が確認できたのは約3割にとどまった。自治体の人手不足などが背景にある。

 虐待は密室性が高い。それだけに、死亡事例を検証することが何よりも子どもの安全確保と再発防止につながる。

 群馬県玉村町で10年、母親が生後3週間の次男に暴行を加え、傷害容疑で逮捕される事件があった。母親は執行猶予付きの有罪判決を受けた。次男は揺さぶられ症候群で脳を強く損傷したことで寝たきりになり、判決後、のどにミルクを詰まらせ死亡した。寝たきりで窒息や呼吸不全になりやすい状態だったが、県は虐待死とはせず、検証作業をしなかった。

 4年後、この母親は三男に虐待を加え、死亡させた。この時に初めて県は専門家による検証委員会を設立した。三男の死亡直後、県や児相は取材に「次男の死は虐待と無関係の病死」と繰り返すばかりで、当事者意識は全く感じられなかった。検証委は「次男の件があったのに虐待リスクが極めて高い家庭と位置づけず、その後も踏み込んだ対応を取れなかった」と指摘した。

 米国や英国では、虐待死や事故死が見過ごされないよう、子どもの全死亡事例の情報を病院や警察、福祉機関などの関係機関が共有し、原因などを検証できる「子どもの死亡登録・検証(チャイルド・デス・レビュー、CDR)制度」がある。小児科医らの研究会が13年に、厚労省の有識者委員会が今年3月にそれぞれ導入を提言している。国はCDRの創設も含め、抜本的な対策を早急に講じるべきだ。

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