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大学関連

新渡戸稲造の「武士道」とは 研究者にインタビュー

新渡戸稲造の肖像画が飾られた部屋で関連著作を手にする佐藤全弘・大阪市立大名誉教授=大阪市内の自宅で

 新渡戸文化短期大学(東京都中野区)で初代校長を務めた教育思想家の新渡戸稲造(1862年〜1933年)の人物像について、長く研究を重ねてきた佐藤全弘(まさひろ)・大阪市立大名誉教授(哲学)に大阪市内の自宅でインタビューした。今年度、同短大で提携講座を開設している毎日新聞社にとって新渡戸は編集顧問を務めるなど関係が深く、その功績に新たな光を当てる作業を始めている。佐藤名誉教授は「新渡戸が説いた『武士道』の本質は現代にも生き続け、世界でも通用するものだ」と力説した。【城島徹、写真も】

     −−新渡戸稲造とはどのような人物だったのですか。

     活動の範囲が非常に広い。英語が堪能で敬虔(けいけん)なクリスチャンとしてしっかりした思想を持ち、国際連盟事務次長として国際政治の舞台で外交手腕を発揮したほか、京大や東大の教授、東京女子大の学長、大阪毎日新聞と東京日日新聞の編集顧問などを務めました。一人でよくあれだけのことができたと思います。新渡戸の思想や信仰を理解するには英文による論考が重要で、亡くなる前日まで英文毎日に執筆した連載コラム「Editorial Jottings(編集余話)」は大変貴重です。

     −−特筆すべき功績は?

     数多くあるなかの一例ですが、フィンランドとスウェーデンの間のオーランド諸島の帰属を巡る紛争を解決させました。国際連盟がロンドンに仮事務所を置いて仕事を始めた1920年ごろのことです。国際連盟の事務次長で国際部長だった新渡戸は現地で調べ、それぞれの立場をよく考慮し領土問題を1年でピタッと抑えたのです。領有しているのは90年以上たつ今もフィンランドですが、住んでいる人はスウェーデン系が多く、フィンランドの領土にするからには島の住民に特典を与えることにしました。外交官としても識見があり、戦争を避けたのは大きな貢献です。

     −−新渡戸の名著「武士道」にはどういうことが書かれていますか。

     日本人の精神形成の大切な部分が英文で鮮やかに紹介されています。アメリカで1900(明治33)年に出版されました。いくつも翻訳された本が出ていますが、新渡戸のことをわかっていない人が出したものがあり、手抜きが多い印象です。私が翻訳して2000年に刊行した「武士道」(教文館)では序文に「日本人の自己認識の書であり、東西融和の基礎を示す書であり、西洋近代文明批判の書であり、キリスト教の心の新しい発見へと促す書である」と書きました。

     −−現代によみがえる「武士道」とは?

     徳目を今の世の中に生かすということが大事だと思いますね。自分の行動を厳しく律するということ。今はそういうことが官僚、政治家から抜けてしまっています。ある国会議員が自衛隊の海外派遣に際し「武士道の精神で」などと発言しましたが、本質をまったく理解していません。決して進軍ラッパのように勇ましく、というものではありません。新渡戸は将来のことを書いています。「武士道」という独立した倫理は消えるかもしれないが、本質はなくなることはないと。世界のどこに持って行っても通用することだと思います。日本で若い世代に読み継がれ、その精神が実行に移されることを願っています。

     −−新渡戸文化短期大学の学生たちへのメッセージをお願いします。

     学校へ招かれて講演した時にも話しましたが、新渡戸文化短大が教育の方針として掲げる「いのち、やさしさ、おもいやり」は分かりやすくて良いと思います。これが新渡戸の札幌農学校時代の教え子である森本厚吉が1927(昭和2)年、現在の新渡戸文化学園である女子文化高等学院を創設した時の発想で、新渡戸の精神にもかなうものです。3H精神(Head、Hands、Heart)と称し、「活く頭(はたらくあたま)」「勤しむ双手(いそしむもろて)」「寛き心(ひろきこころ)」です。新渡戸文化学園では森本厚吉が生きているころから新渡戸に関する資料を集めていて、他の学校にないような資料があり、新渡戸稲造を学ぶには大変恵まれた環境です。ぜひ勉強してみてほしいと思います。

      ◆  ◆

     新渡戸の「武士道」が21世紀に持つ意味について、佐藤名誉教授は自ら翻訳した「武士道」の序文で次の3点を挙げている。

    (1)新渡戸は世界のあらゆる民族の伝統文化の中に、それぞれの精神的価値があると見ている。今や世界が多元化し、各民族・国家が他の民族・国家の存在と価値を認めつつ、平和に共存し、互いの必要に奉仕し合わなければ、人類の未来はもはやない時に来ている。このことはいくら強調しても強調しすぎではない。とりわけ宗教についてもそのことが言えることを忘れてはならない。イデオロギーや人種的偏見は、新渡戸においてはすでに超克されている。

    (2)各文化が表面上どんなに違っていても、人間としてその魂の底の底では相通じるものがある、と新渡戸は見ている。このことは本書ではとくに日本の武士道と西洋の騎士道について論じられているが、他のどの点についても言えよう。人類の魂の通有、これこそ平和の確かな礎である。

    (3)日本の魂は、形こそ変わり、表現こそ違ってきても、決して失われることはない、と新渡戸は信じている。武士道はキリストの心(キリスト教ではなく)に結ぶことによって、その世界史的役割を果たすと見ている。日本の心がそうあってほしいと私も心から願い、そうあるように一隅で努めている。

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