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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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セノーさんは店の売り上げを入金するため…

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 セノーさんは店の売り上げを入金するため、きょうも郵便局へ行く。窓口の女性に声をかけ、判子を押すスタンプ台を借りる。「ああああああ、ところでおねえさん、あああああ」▲女性は会話を楽しむように「スタンプ」という言葉が出るまで待ってくれる。24歳のセノーさんは障害のある人たち約40人が働く横浜市のパン屋やカフェの一員だ▲運営するNPO法人「ぷかぷか」理事長の高崎明(たかさきあきら)さん(67)が彼らの日常をホームページで紹介している。そこで相模原市の障害者殺傷事件にも触れている。障害者がどんな日々を送っているかを知らないことが「社会の負担になっているだけの存在だ」という考えにつながっていく、と▲高崎さんは会社員から養護学校の教員に転身した。雨が降ると校庭に飛び出し、うれしそうに全身に雨を浴びる子たちがいた。先生ももっと自由に生きていいんだよ。そう教えてもらえた。この子らのことを街の人に知ってほしい。教員を退職した6年前に店を始めた▲最初は「声がうるさい」と苦情が寄せられたという。今は違う。パン屋を訪ねると20代のツジさんがいた。記憶力抜群で計算の達人だ。客がトレーに乗せたパンの合計額を一瞬ではじき出す。カフェでは調理担当の女性が「仕事、頑張ります」と繰り返し、笑顔を振りまく。一人一人の魅力がファンを増やし、街を豊かにしている▲閉店後、「ぷかぷか」でミーティングが始まった。セノーさんは体力を使い果たして寝転んだ。NHK紅白歌合戦の曲を年代別に記憶するツジさんは好きな歌を口ずさむ。司会役がみんなに尋ねる。「いい一日でしたか」

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