メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

Listening

<記者の目>学習指導要領改定に向けて=佐々木洋(東京社会部)

独自に全学年で英語を教えている東京都品川区の小学校。日本人英語講師(右)と担任(中央奥)の協力が欠かせない=品川区立三木小で7月、猪飼健史撮影

教室の現実踏まえよ

 グローバル化に対応できる英語力や、将来予測が困難な時代を生き抜く思考力を育てるという狙いはうなずける。だが、どんな立派なメニューも現場に受け入れる余裕がなければ消化しきれないだろう−−。文部科学省が進める次期学習指導要領の改定作業を取材し、そんな危惧を感じる。国民からの意見公募などを経て今年度末に新指導要領が告示されるが、教室の現実を踏まえた内容にしてほしい。

    疲弊する教員、多忙化に拍車

     学習指導要領は、全国どの学校に通っても一定水準の教育を受けられるように、小中高校の各教科の目標や内容を文科省が定めている。教科書や学校での指導内容の基になり、おおむね10年に1度改定される。次期指導要領に沿った授業は2020年度から順次実施される。

     今回の改定で大きく変わるのが小学校の英語教育だ。現在は5、6年生が歌などで楽しく学ぶ「外国語活動」を週1時間(1単位時間は45分)受けているが、正式な教科にし、授業を週2時間に増やす。一方、「外国語活動」は3、4年生に前倒しする。従来の「聞く」「話す」に加え、高学年から「読む」「書く」も重視し、コミュニケーション能力の育成を図る。

     問題は授業時間の確保だ。3〜6年生の各学年で年間35時間、英語の授業が増えるが、高学年は今も平日は1日6時間の時間割がほぼ埋まっている。文科省は始業前の15分程度の分割授業や、土曜や夏・冬休みの活用を提案する。しかし、多くの小学校では既に始業前を読書や計算練習などに充てている。細切れの授業で英語の学習効果があるのか検証も必要だ。休日が減ることになれば、事務作業の多さなどから先進国中、最も勤務時間が長い教員の多忙化に拍車をかけないか。

     「外国語指導助手(ALT)との打ち合わせや準備が欠かせないが、他の仕事もあり十分な時間が取れていない。新しい指導要領で負担が増すのではないか」。東京都内の30代の男性教員は不安を口にする。生活指導など多くの課題を抱え、英語指導に自信のない教員には「5、6年生の担任になりたくない」と考える人もいるという。

     文科省は今回の改定に学習内容を減らさない方針で臨んだ。前々回の1998年改定で学習内容を3割減らした「ゆとり教育」が批判を浴び、前回08年改定で内容を復活させた苦い教訓があるためだ。

     ゆとり教育のどこが問題なのか。文科省幹部は「教育は知識と思考の両方が大事なのに、知識を軽視して学習内容を減らし過ぎ、教育の体系性が崩れた。両方をバランス良く指導する現行指導要領の考えを、次の指導要領でも継続したい」と話す。だが、限られた時間で新しい内容を教えようとするなら、何かを削ることも必要ではないか。

    高い理念先行、実現に疑問符

     次期指導要領のもう一つの特徴は、思考力や表現力の重視だ。その象徴が、知識を活用し討論や意見発表を通じて課題を探究する学習形態「アクティブ・ラーニング」。自分の考え方やその理由を他者に説明することで知識の定着が深まり、学習意欲を高める効果もあるとされる。講義形式の一斉授業を改善するために大学で始まった手法だが、教員によってとらえ方はさまざまで「具体的に何をすればいいのか」と戸惑う声が出ている。教科横断型の「総合的な学習の時間」を導入した際、現場に趣旨が伝わらずに大きく混乱した。教員の理解を高めなければ、型をなぞるだけの授業になりかねない。

     次期指導要領ではコンピューターを活用するためのプログラミング教育も導入される。プログラミング教育は政府が6月に閣議決定した新成長戦略に盛り込まれた。文科省は5月に有識者会議で議論を始め、わずか3回の会合で報告書をまとめ、指導要領改定の議論に間に合わせた。

     有識者会議では「例えば環境教育など『何々教育』というものが次から次に入ってくる。先生の疲弊感は強くなるばかりで、実現可能性を考えてほしい」などの意見もあったが、考慮されただろうか。

     日本の中高生には、教科書程度の説明文の意味さえ理解できない生徒が少なからずいる−−。国立情報学研究所・新井紀子教授が東京や埼玉の中高生に昨年度実施した調査結果は、教育関係者の間で衝撃をもって受け止められている。現状を見ると、小学校での英語やプログラミングと、日本語の基本的読解力のどちらを優先すべきか、慎重に考える必要があると思う。

     足元をおろそかにしたまま新たなことを積み上げ「砂上の楼閣」にならないよう、文科省には現実を踏まえた指導要領をまとめてほしい。

    コメント

    投稿について

    読者の皆さんと議論を深める記事です。たくさんの自由で率直なご意見をお待ちしています。

    ※ 本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して毎日新聞社は一切の責任を負いません。また、投稿は利用規約に同意したものとみなします。

    利用規約

    おすすめ記事

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 生理で体育見学の女子生徒に口頭で理由報告させる 滋賀の県立高
    2. 「巡査、強靱な体力で順調に回復」と府警本部長 拳銃強奪
    3. 新潟・山形地震 TSUNAMI聞き取れず 旅行中の米国人「パニックに」
    4. トイレットペーパーで性教育 漫画や絵で「正しい知識を」
    5. ムシに学んだ高精細印刷 インキ不要、安価に発色 京大グループ開発

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです