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著者インタビュー 横尾忠則 『千夜一夜日記』

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夢は、死んだ人とも交流できる装置ですよね

◆『千夜一夜日記』横尾忠則・著(日本経済新聞出版社/税抜き1800円)

「絵とか小説というのは“作品”ですから吟味して作り込むけど、日記って車の排気ガスみたいな、僕が生きていくことで出てくる残留物みたいなものだから。僕のは無害だと思うけど(笑)」

 1036日間の日記を一冊にまとめた本書には、横尾忠則さんの日常の行動と思考が、そんなふうに自然体で綴(つづ)られている。たしかに無害。夢の描写が多い文面には、横尾さんの絵画作品のような幻視感も漂う。

「夢は、死んだ人とも交流できる装置ですよね。僕の創作は生の証しと同時に死の証しでもあるから、きっとごく自然に死んだ人が登場して、生きてる人と境目なく動いてしゃべるんだと思う」

 夢と同じくらい頻出するのが、病気の話だ。

「闘病日記みたいでしょ? でもケロッと病気になってケロッと治っちゃう。この本にも出てくる玉川病院の院長先生の所へは、病気じゃなくても身体のことやアートのことを話しに行くんだけど、あんまりお医者さんっぽいことおっしゃらないんですよ。薬も出してくれないし(笑)。でも時々、脅かすんです」

 2015年11月に受診した際、突然「重篤です!」と宣言されて即入院。その顛末(てんまつ)は本書にも記されている。

「カミさんは、先生が電話で重篤って言っても、全然本気にしてなかったんですよ。そのことはちょっと恥ずかしいから日記に書いてませんが(笑)。この時に限らず、僕自身は深刻なんだけど、文章だと軽く書いちゃうところがあるんですよね。だから仮病だと思われちゃうんだけど、仮病で入院して、点滴まで受けませんよ」

 たしかに病気の話は、学校に行きたくない子供のわがままのようにも読める。

「でもアーティストって、いかに小児性を保ち続けるかを問われるんですよ。子供って何でも壊したがるでしょ? アーティストも自分で積み上げた石を、自分で壊すことの繰り返しなんです。大人はせっかく労力を費やしたものを、自分では壊しませんから」

 そして最多登場人物は、映画監督の山田洋次さん。毎週のようにそば屋で昼食を共にし、語り合う。

「山田監督はスマホ使えるんですよね。僕より年配なのに使いこなしてる。僕は携帯も持ってないんだけど、他人には持っててほしい。待ち合わせに遅れそうな時はタクシーの運転手さんに携帯借りて、唯一番号を覚えてる事務所にかけて先方に伝えてもらったり。手続きはややこしいけど、アナログ的で僕には合ってるなと思ってね」

 最高齢登場人物は、瀬戸内寂聴さんだ。

「いつも『こんな歳まで生きて恥ずかしい、早く死にたい』って言ってワッハッハッて笑うの。どっちがホントかわからないけど、イイなって思います。今日も後で、ご機嫌伺いをするつもりですが『まだ生きてんのよぉ!』って、同じように笑うんでしょうね。僕もそんなふうに言ってみたいですよ」

 と微笑(ほほえ)む横尾さんの日記、最終日の文末には(未完)とある。

(構成・小出和明)

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よこお・ただのり

 1936年、兵庫県生まれ。美術家。72年、ニューヨーク近代美術館で個展。作品は世界の美術館に収蔵され、個展開催も多数。今年、『言葉を離れる』で講談社エッセイ賞を受賞

<サンデー毎日 2016年9月11日増大号より>

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