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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 浅野里沙子 『藍の雨 蒐集者たち』

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美への欲が悪を引き起こす そこに人間くささを感じる

◆『藍の雨 蒐集者たち』浅野里沙子・著(ポプラ社/税抜き1600円)

 飛龍冬鹿(ひりゆうとうか)はミス・ユニバースで優勝した美貌と長身を兼ね備え、ジュエリーデザイナーとして世界的に活躍していた。しかし、骨董(こつとう)商である父が殺害されたことから、すべてを捨てて日本に帰ってくる。

 『藍の雨 蒐集者たち』は、父の死の謎を追う冬鹿が巻き込まれる古美術と宝石をめぐる事件を描いた連作短編集だ。

「冬鹿は宝石の専門家ですが、骨董についても父譲りで、美を見抜く目を持っています。彼女は物事を的確にとらえるために、じっくりと観察します。彼女の心情を描くのではなく、細かな行動やしぐさ、情景描写を通して、客観性に長(た)けた冬鹿というキャラクターを際立たせました。ドライな性格ですが、秘書の一郎にだけは甘えているらしい様子も、彼女の行動によって示したつもりです」

 浅野さん自身も、以前から宝石に興味があったという。

「20歳ごろに百貨店の中の喫茶店でアルバイトしていたとき、隣の宝飾店の人にいろんな宝石を見せてもらいました。いずれ宝石をテーマに書いてみたいと、新聞やネットで読んだ記事をスクラップブックに貼っていたんです。そういう要素をコレクションする感じで、物語をつくっていきました。ですから、書いていて楽しかったですね。その一方で、読者が見たことのないモノを、その感じが分かるように書くのは難しかったです」

 本作では、骨董や美術をめぐる事件も起こる。

「骨董も美術も定価がなく、売る人と買う人の駆け引きで値段が決まります。偽物をつかまされるほうが悪いという世界。美への欲が悪を引き起こすところに、人間くささを感じるんです」

 タイトルに使われた藍は、骨董の世界を象徴する色だ。登場人物の一人はそれを「きれいな闇」と呼ぶ。

「藍は明け方の薄暗闇の中でよく目を凝らすことで、はっきりと見えてくる色です。冬鹿はその藍を見分ける目を持っているために、事件に巻き込まれることになります」

 冬鹿という名は、故・北森鴻(こう)の「旗師・冬狐堂」シリーズの主人公を想起させる。浅野さんにとって北森さんは、小説の先生であり恋人でもあった。

「北森さんには京都の骨董市によく連れていってもらいました。彼が亡くなったあと、蓮丈那智シリーズの未完の長編『邪馬台』を、私が書き継ぐことになりました。北森さんの思考をなぞるのは辛(つら)かったけれど、文章の書き方を学ぶいい機会でした。今回の作品は、もちろん冬狐堂シリーズのことは意識していますが、主人公の名前は万葉集の猿丸大夫の歌から思いついたんです」

 本作には、随所に女性らしいセンスがうかがえる。「悪女の芽」は、結婚式のブートニア(花婿が襟(えり)に飾るコサージュ)を小道具に使い、女性の心に潜む怖さを表現していて、浅野さん自身も気に入っているという。

「この作品は、私のオリジナルとしては初めての現代ものです。今後もシリーズとして書き続けていきたいです」

 そう語る浅野さんの表情には、作家としての決意が刻まれていた。

(構成・南陀楼綾繁)

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浅野里沙子(あさの・りさこ)

 1962年、東京都生まれ。作家。2009年『六道捌きの龍 闇の仕置人無頼控』でデビュー。公私にわたるパートナーだった北森鴻氏の死後、遺作『蓮丈那智フィールドファイル4 邪馬台』を完成させる。著書に『花篝 御探し物請負屋』など

<サンデー毎日 2016年9月18日号より>

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