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Listening

<論点>ふるさと納税を問う

 生まれ故郷など応援したい自治体に寄付すると、居住地の税が軽減される「ふるさと納税」。震災の被災地支援などに役立つ面もある一方で、自治体側の寄付獲得競争が過熱し、寄付の返礼に豪華な品が並ぶケースも。逆に都市部の自治体は、当て込んでいた税収が失われて悲鳴を上げる。制度の今後はどうあるべきなのか。

地方創生の起爆剤に 池田宜永・宮崎県都城市長

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 2015年度のふるさと納税額は42億3100万円、受け入れ件数は28万8338件で、いずれも全国一となった。ある程度の期待はあったが、なんと前年度の約10倍にもなるとは! 職員一同、うれしい悲鳴を上げながら、職務に取り組んでいる。

 納税制度そのものは08年の制度発足時にスタートしたが、市長就任後の14年秋から大幅にリニューアルした。最大の狙いは納税制度を市のPRに活用すること。「都城」の地名は宮崎県民はほぼ知っている。九州なら半分くらいか。しかし、その外となるとどこにあるのか、どんな町なのか、ほとんど知られていない。焼酎ブームもあり「黒霧島(クロキリ)」(霧島酒造=本社・都城市)の名前は全国に浸透しているものの、多くの人が「鹿児島の焼酎」と思っている。東京で勤務していた時も、実に悔しい思いをしたものだった。

 都城は肉(牛豚鶏とも)と焼酎の生産量・売上高が日本一だ。そこで納税の返礼品も「日本一の肉と焼酎のふるさと」を知ってもらうために「肉と焼酎」に限定した。それまでは産品の詰め合わせセットを抽選で贈っていたが、つかみを特産2品に限定したことが奏功したようだ。背景には市の最大の特産品が「食」であったことの幸運はある。お肉は万人受けするし、焼酎との相性もいい。日本一の中には木刀や弓などもあるのだが、食べ物にはかなわない。当初はお肉に限定したことへの異論もあったし、他の産品もという声も出たが、総花発想はダメ。そこは妥協はせず、理解していただいた。軌道に乗った今年度からは他産品も加えるようにしている。

 用途についても、子ども支援▽環境対策▽まちづくり支援−−など、八つの使い道を明示し、寄付目的に沿って活用している。この夏は中学生の海外交流事業を10年ぶりに復活し、10人がオーストラリアを訪問した。また寄付の44%を占める「市長におまかせ(特に指定なし)」についても、各種証明書のコンビニ交付サービスなど市民生活に直結した事業に充てていく。

 さらにふるさと納税に取り組んだことによって職員の意識改革が進んできたことの意味が大きい。返礼品の手続き事務を扱うことで「品質管理」や「お客様目線」という意識が育ってきた。当然のことだが、職員にとっての最大のお客様は市民であり、この意識改革が公共サービスの向上につながっている。ふるさと納税によって(1)対外的なPR(2)地場産業の活性化(3)市税収の増加(4)職員の意識改革−−という「一石四鳥」が実現してきており、まさに「地方創生」の大きな起爆剤になっている。

 もちろん、すべての自治体に万人受けする特産品があるわけではないだろう。しかし、最近の消費者ニーズは多様化しており、田舎では当然のことが都会の人にとっては宝物というものもある。足元の宝物を発掘し、見せ方を工夫すれば、どの自治体にもチャンスはあると思う。まずは行政側が自己満足的なお役所意識を変えること。金額(税収)目的ではなく、全国にファンを作るつもりでPRすることが大切なのではないだろうか。【聞き手・森忠彦、写真も】

効果大だが弱肉強食 保田隆明・神戸大大学院准教授

 ふるさと納税は制度としての改善点は多いが、地域活性化にとってこれほど効果的なツールは今までなかったと評価している。

 かつて「ふるさと創生1億円」で、地方自治体は温泉を掘ったり金塊を買ったりと使途に困っていたが、ふるさと納税は寄付をした人々に特産物などの返礼品が届き、首都圏と地方の間でモノとカネが循環する。寄付した人々へのアンケートでは、7、8割が「その街を訪ねたい」と答えた。都市部の住民が地方に関心を持つきっかけを与えた点は注目に値する。

 だが、課題も多い。ふるさと納税で都市部の住民が農村部の自治体に寄付すると、住んでいる自治体の住民税収が減る。減収分の75%は地方交付税で補填(ほてん)されるが、東京23区のような不交付団体は純減となる。保育園の整備など区民のために使われていたお金の一部が、ふるさと納税によって特定区民が食べる牛肉に化けてしまう。

 農村部の自治体同士にも問題が生じる。ふるさと納税で人気が高いのは、返礼品に牛肉やフルーツなど、少しぜいたくな「ハレの日食材」を提供する自治体だが、人口が1万人未満の自治体の多くは、主要な産業を持たず、特産品の返礼が難しい。こうした自治体が多くの寄付を集めようと返礼品に家電や商品券などの金券を出し、問題となった。

 換金性の高い金券が富裕層の節税に使われる点が問題視されたが、それだけではない。地方の無名の商店街で使える商品券が返礼品になると、その自治体の隣町の住民がふるさと納税で商品券を入手し、隣町で買い物を始める。衰退する自治体同士が、金券を機に客を奪い合う不毛な競争が生じる。

 寄付金の使途についても同様だ。多くの寄付を集めた自治体が、それを財源に子供の医療費の無料化を打ち出す。近隣の自治体は、住民の流出を防ぐため追随せざるを得ない。十分な返礼品がなく寄付金を集められない自治体は、やがて自分の首を絞めてしまう。

 ふるさと納税は、自治体に経営の視点を持ち込んだ。自治体に自助努力を促し、一部効果が出ている。一方、行政に弱肉強食の世界を持ち込んだことは、制度の光と影と言えよう。

 だが、自治体間の税の偏在の是正は、本来地方交付税で行うべきだ。また、寄付には住民税の2割までと上限が定められ、底なし沼のように税収が減ることもない。ふるさと納税は、あくまで魅力ある自治体を作るマーケティングのための制度と理解すべきだ。

 もう一つ指摘したい。ふるさと納税は住民にとって唯一「使途を選べる税金」と言える。私たちは普段、払った税金がどう活用されているのかあまり実感できないが、ふるさと納税は自らの意思で納める自治体を選べる。住民は、支払いの結果が目に見えるという「痛快感」を持てるのではないか。

 今後は各自治体も、寄付金の使途の透明化が問われる。使途の情報が多く公開されれば、支払った住民の納得感も高まるだろう。理想論かもしれないが、ふるさと納税が、税金に対する意識を高める契機になることを期待したい。【聞き手・尾中香尚里、写真も】

地方との格差、国の責任 高野之夫・東京都豊島区長

 ふるさと納税について、当初は一定の評価をしていた。農村部の自治体が地元の特産品を宣伝することで税収が増え、行政サービスにつながるなら意味はある。

 だが、ふるさと納税による区民税の控除額が2016年度に3億8000万円に達したと聞き、驚いた。区税収入309億円の1%を超す額だ。これほど多額の税金が区税収入から失われていることに危機感を抱いた。4億円あれば、待機児童対策や文化事業に相当のお金をかけられただろう。

 区民税の控除額は、この1年で6倍以上と急激に伸びた。地方の自治体が返礼品に牛1頭や車を出すなど、際限ない「返礼品競争」を始めた影響だ。ふるさと納税すれば納税額の半分を超える見返りがあるなら、誰でも居住地に税金を払うよりそちらを選ぶだろう。だが、区税収入が減れば、区民サービスにしわ寄せが来る。返礼品の金額に上限を設けるべきだ。

 ふるさと納税で他の自治体に寄付をした時に確定申告せず控除が受けられる「ワンストップ特例」の導入、寄付に対する控除額の引き上げなど、ふるさと納税をしやすくする制度改正の影響も大きかった。豊島区の場合、ふるさと納税の利用者はこの1年で3倍以上も増えている。豪華な返礼品による寄付の募集については、やり過ぎだ。地方税のあり方が大きく変わってしまうと危惧している。

 豊島区は人口密度が日本一高い。13平方キロメートルの土地に28万人を超える区民が暮らし、さらに毎年増えていて、大手住宅情報誌による今年の「住みたい街ランキング」で、池袋は東京23区内で4位。大繁華街を抱え、区外から訪れる人も多い。

 だから2年前、「日本創成会議」分科会のいわゆる「増田リポート」で、23区で唯一「消滅可能性都市」と名指しされた時は衝撃を受けた。理由の一つに子育て環境があると考える。若い区民は結婚し子供を持つと、家賃が安く環境の良い郊外に転出する。安心して子供を育てられる、女性にやさしいまちづくりが必要であり、待機児童対策は欠かせない。繁華街の治安対策も力を入れる必要がある。

 東京は税収は多くても、地方にはない多様な行政需要への対応が求められる。税収は着実に住民のために使わなければならないのだ。

 もちろん、地方を潰して東京が独り勝ちすべきだとは考えていない。豊島区は地方からの流入人口に頼っており、地方が消滅すれば私たちも消滅しかねないからだ。だが、ふるさと納税のように、納税への見返りをうたって自治体間の競争をあおるのはいかがなものか。地方分権改革の宿題を棚上げしたまま、地方と東京の対立をあおるだけではないか。

 都会と地方の財政格差の是正は必要だ。しかし、それは本来、国の責任で行うべきではないか。大学進学のために上京した地方の若者が地元で就職し、子供を産み育てられるようにするといった施策の充実こそ大切だ。「30年後には人口が半分に」などと予測する前に、まず国として抜本的な対策を打ち出してほしい。【聞き手・尾中香尚里】


昨年度は前年の4倍

 総務省によると、ふるさと納税による地方自治体への寄付額は、昨年度は計1652億9102万円と、前年度の4.3倍。減税対象となる寄付額の上限が、昨年4月に約2倍に引き上げられた影響とみられる。自治体別では第1位の宮崎県都城市(42億3100万円)に続き、2位は静岡県焼津市(38億2600万円)、3位は山形県天童市(32億2800万円)。今年度からは企業が自治体に寄付すると税負担が軽減される「企業版ふるさと納税」も始まった。


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 ■人物略歴

いけだ・たかひさ

 1971年宮崎県都城市生まれ。九州大卒。東大院修了。94年大蔵省(当時)入省。在オーストラリア日本大使館勤務、都城市副市長、財務省主計局主査を経て、2012年から現職。


 ■人物略歴

ほうだ・たかあき

 1974年兵庫県生まれ。早稲田大大学院修了(商学博士)。小樽商科大大学院准教授などを経て現職。専門は金融論。ふるさと納税について自治体などの調査・研究をしている。


 ■人物略歴

たかの・ゆきお

 1937年豊島区生まれ。立教大学経済学部卒。東京都議などを経て99年に区長に初当選、現在5期目。子育て世代の女性の意見をくみ上げる「としまF1会議」などに取り組む。

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