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<記者の目>ヘイトスピーチ解消のために=林田七恵(東京社会部)

抗議する市民に囲まれ、中止に追い込まれたデモ=川崎市で6月5日、小出洋平撮影

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新法で負の連鎖断て

 在日外国人らの排除を扇動するヘイトスピーチの解消をうたった対策法が施行された直後の7月に実施された東京都知事選で、「犯罪朝鮮人をたたき出す」などと訴える「選挙運動」が繰り広げられた。その選挙戦を取材し、差別を許容する土壌がヘイトスピーチによって刺激され、差別感情が拡散、再生産される悪循環があるのではないかと感じた。悪循環を断ち切るために、人種差別自体を禁止する法律の制定を求めたい。

    対策法施行後、一部では効果

     「私たちは法によって守られるべき存在だと示された。初めて尊厳が大切にされた」。6月5日、川崎市で予告された「日本浄化」デモが市民の抗議で中止に追い込まれると、同市の在日コリアン3世、崔江以子(チェカンイジャ)さん(43)は涙ながらに語った。川崎市では在日コリアンを標的とするデモが繰り返され「真綿で首を絞めてやる」と叫ぶ集団が押し寄せていた。崔さんは3月、参議院で意見陳述して被害を訴えた。こうした動きを受けて、国に差別的な言動の解消に取り組む責務を、自治体に努力義務を課したヘイトスピーチ対策法が6月3日に施行されたが、罰則や禁止規定がなく、一部で実効性が疑問視された。

     効果はあった。デモを主催する男性は新たに法施行2日後のデモを予告したが、市は在日コリアンが多く住む地域に近い公園の使用を許可せず、横浜地裁川崎支部も近くでのデモを禁止する仮処分決定を出した。男性は別の場所でデモをしようとしたが、抗議の市民が集まり、警察に「これが国民世論の力だ」と説得されて断念した。

     ヘイトスピーチを繰り返してきた「在日特権を許さない市民の会」元会長の桜井誠氏(44)が都知事選への立候補を表明したのは、そのわずか24日後だ。

     桜井氏は選挙運動の妨害が公職選挙法違反になることを念頭に「(選挙が終わるまでの)16日間は『無敵』」と宣言し、選挙戦で在日本大韓民国民団の中央本部前や在日コリアンが多い新宿区の新大久保などで怒声を上げた。

     選挙戦終盤、池袋駅前で桜井氏の街頭演説に聴き入る有権者に話を聞いた。近くに住むという女性は「この辺りは日本人より中国人や朝鮮人が多くて、住んでいるマンションでもごみの捨て方がひどい」と顔をしかめた。運送会社員の男性(21)は「外国人の犯罪が多くなった」と話した。

     桜井氏は21人の候補者中、5番目の11万を超える票を獲得した。投票した有権者の1・7%が支持したわけだ。

     在日外国人の増加が治安悪化につながるという主張には根拠がない。2015年の犯罪白書によると、全国の刑法犯の認知件数は02年をピークに減り続けている。起訴された外国人の数もピークの03年の3割強だ。金尚均(キムサンギュン)・龍谷大教授(刑法)は「客観的な治安状況や犯罪件数に関係なく『外国人は困った存在』と思っている人が、桜井氏に扇動され十把一からげで人間性を否定する考えを表に出せるようになる。法規制がなければこの動きは更に広まり、在日外国人を社会から排除することがまかり通る」と危惧する。

    差別の再生産、公人発言が誘発

     振り返れば、00年に当時の石原慎太郎都知事が「不法入国した三国人が凶悪な犯罪を繰り返している」と発言し、差別的だと批判された例がある。「三国人」は戦時中日本国内にいた中国人などを指した言葉。石原氏は「不法入国した外国人という意味で使った」と釈明し、都には石原氏を支持する声も寄せられた。差別を許容する空気は日本社会に流れていた。約2年前に取材した自称「ネトウヨ(ネット右翼)の親玉みたい」な男性は、排外主義に傾倒したきっかけとして石原氏の発言を挙げ「当然信用した。社会の裏が分かった」と話していた。

     まさに差別の再生産だ。公人の発言は差別を再生産し、拡大させうる。対策法にヘイトスピーチの禁止規定を設けるのも一つの策だが、ヘイトスピーチは人種差別、民族差別の一端に過ぎない。差別表現だけでなく、人種や民族を理由にした差別行為を包括的に禁止する法律の制定が必要だと考える。

     例えば、国連人種差別撤廃委員会は日本に対し、外国人技能実習生の待遇や長期滞留者が公職に就く際の制限について是正を勧告しているが、こうした法律は是正に有効だろう。

     法があってこそ差別が許されないというコンセンサスも生まれうる。実効性を持たせるために差別行為を定義して禁じ、被害救済を明記する。差別根絶に向けた基本計画の策定を国に義務付け、教育や予算措置に道筋を付けるべきだ。国は「人権大国の構築」を掲げている。看板倒れに終わってはならない。

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