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<保育士・幼稚園教諭>3万人調査 多い事務作業、重い責任
東京大大学院発達保育実践政策学センターは、全国の保育士、幼稚園教諭ら約3万人の保育者と、市区町村の子育て支援部局などへの大規模調査の結果をまとめた。保育者調査では、クラス担任が負担に感じる要因は、事務作業の多さ▽仕事の責任の重さ▽保育者不足−−だった。一方、自治体調査によると、担当者は保育の量の改善に比べて、質の改善が遅れていると認識していることが浮かび上がった。同センターはさらに詳細な分析をして、17日に東京都文京区で開くシンポジウムで結果を公表するとともに、政策提言につなげるという。【堀井恵里子、写真も】
疲れ感じる 78%
保育・幼児教育をめぐっては、保育所の待機児童対策として保育施設を中心に量を増やす動きが加速している一方、質の確保が課題となっている。保育者への調査では、子どもとの関わりのほか、労働環境、施設環境などを調べた。
保育者と子どもの関わりの自己評価(5段階)は、どの年齢の子どもの担任も「悲しみや怒りなどの感情表現を受け止めている」など「受容・共感・傾聴」に関わる項目の平均値が4・33〜4・45と最も高かった。3、5歳児担任では「いざこざの時子ども同士で解決できるよう声かけする」など「集団での遊び・活動の支援」が4・31〜4・35で続いた。
一方で、3、5歳児で比較的低かったのが「子どもの疑問や好奇心について他の子と共に考える」など「好奇心・探求心を踏まえた遊び・活動の支援」で4・01〜4・06。5歳児では「温かく受容的な雰囲気」も4・01と低かった。
保育者が負担と感じているのは、手がかかりやすい1歳児担任で(1)保育者の不足(2)仕事の責任の重さ(3)事務作業の多さ−−だった。3、5歳児担任でも、順位は変わるものの同じ3項目だった。園長では、事務作業、保育者不足に次いで「研修時間を十分確保できない」が入った。
体調については、「疲れを感じる」と答えた担任は「とても」と「やや」で計78%だった。施設別でみると、認可保育所が幼稚園よりやや多い。3歳児担任で保育所81%、幼稚園77%、5歳児担任では保育所85%、幼稚園79%だった。
施設環境に関する評価では、待機児童が多い東京23区で施設間の差が大きい傾向があった。「園庭や近隣の公園など体を動かす遊びの環境が確保されている」「室内に子どもがハイハイする空間がある」について、幼稚園や認可保育所は高く評価し、認可外保育施設や小規模保育所は低く評価する傾向がみられた。
同センターは保育者と子どもの関わりについて「『受容・共感・傾聴』の得点が高く、日本の保育の特徴や良さといえる。一方、『好奇心・探求心を踏まえた遊び・活動の支援』は比較的低く、他国の先進的な取り組みに学ぶことも重要ではないか」としている。
自治体、「質」より「量」
自治体調査では、保育の質と量の双方について、現状を把握するとともに課題を探った。
首長への調査では、「保育・教育政策で特に重点を置いて取り組むべき課題」(複数回答)を尋ねたところ、「障害のある子どもらの保育・教育の充実」(40%)や「認可保育所の整備・増設」(39%)が多く、保育量の拡充を重視していた。
一方で、「監査・外部評価の実施」(5%)▽「認可外保育施設などの認可移行」(3%)▽「認可外保育施設の保育の質の保障」(2%)−−など保育の質に関わる項目は低かった。
担当者への調査でも同様の傾向だった。2015年度の子ども・子育て支援新制度実施後の取り組みについて、「保育・教育施設が多様化した」として量の拡充が進んだとの回答は「やや」「とても」で計49%。これに対し、「子育てや保育・教育の質の保障が進んだ」は「やや」「とても」で計31%にとどまった。
認可外保育施設への抜き打ち検査を実施した自治体は4%で、92%が実施していなかった。保育・教育の質向上などに取り組む職員を置いているのは、常勤で14%、非常勤でも15%で計3割弱。質の保障や向上が今後の課題であることが改めて裏付けられた。………………………………………………………………………………………………………
◆保育者調査=全国の認可保育所▽認定こども園▽幼稚園▽小規模保育所▽認可外保育施設−−の計2万379施設で働く園長、主任、1、3、5歳児担任の各1人を対象にし、3万700人から回答を得た。回答率は認可保育所50〜53%▽認定こども園41〜45%▽幼稚園36〜44%▽小規模保育所33〜37%▽認可外保育施設9〜17%。
◆自治体調査=全1741市区町村を対象に、首長577人(回答率33・1%)、子ども子育て支援担当者811人(同46・6%)から回答を得た。
調査時期はいずれも2015年12月〜16年3月。