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磯田道史・評 『競馬の世界史』=本村凌二・著

 (中公新書・907円)

 稀有(けう)な本である。著者は世界史の泰斗。ながらく東京大学でローマ史を講じた。ただの東大名誉教授ではない。競馬の知識にかけては他の文化人の追随を許さない。半世紀に及ぶ競馬ファン。その先生が、膨大な競馬と世界史の知識を注ぎ込んで書いた本である。面白くないわけがない。

 たとえば、古代の戦車競馬を論じるときも、競馬ファンらしく、着眼点がちがう。ローマのモザイク画をみて、馬体が、ほっそりした馬と、がっしりした馬があり、古代ローマでは、すでに長距離用(ほっそり)と短距離用(がっしり)の目的別の馬体育成があった、と書く。著者は『ラテン碑文大全』などを読みこなせるから、そこからも情報をもってくる。ローマは戦車競馬といっても、御者だけが人気であったのではなく、馬も人々の注目を集めており、記念碑から馬の出身地がわかり、ローマの戦車競走馬は、ほとんどが北アフリカ産だ、という具合である。中世ヨーロッパは騎士の乗馬槍(やり)試合のほうが人気があって競馬は低調であったが、十字軍の遠征で、アラブ馬の優秀性が知られ、乗る人の技でなく、乗せる馬の足を競う競馬への熱意が芽生えてきたらしい。

 近代競馬はイギリスで発達した。一五四○年、イギリスのチェスターに最初の常設競馬場ができ、十七世紀後半になって、競馬場の内外で賭博がさかんになる。馬を競走させてレース結果に金を賭けるのは、明らかにイギリスで発達したものである。大陸ヨーロッパ、イタリアなどでもお祭りでレースは行われるが、競技は馬術の技を競うものが主であり、速さを競うのは、イギリス人の気質に由来する。イギリスのEU離脱が話題になったが…

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