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開沼 博・評『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』加藤陽子・著

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思考を積み重ねたうえでよりよき選択ができるように

◆『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』加藤陽子・著(朝日出版社/税抜き1700円)

 「選択肢が増えること」が、誰にとっても常に「好ましいこと」だとは限らない。例えば、近年になって広く受診可能になった「新型出生前診断」は、血液検査によって胎児の染色体障害の有無を知らせる。胎児の障害が確定した際、約97%の親が中絶を選ぶという。その選択をした親のすべてがただ単純に「良かった」と思うわけではなかろう。一方で、少なからず存在するだろう「良かった」と思う親に、実際に障害を持つ人やその親が何を思うだろうか。

 近代化は、私たちの自由や平等をより広く担保するように進み、技術や産業の展開と結びつきながら選択肢を供給し続ける。それは貧しさや病、争いから私たちを解放する。ただ、時にそれは私たちが選択するために必要な議論や心構えを十分に用意する速度を超え、私たちをのみ込んでいく。これまで意識する必要がなかった選択肢が増え続け、ひたすら決断を迫られる社会。その葛藤に耐える力をつけるのに必要なのは、視野を広げる努力…

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