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くれないにおう あきいろ奈良

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冬が終われば春が来て 春が終われば夏が来る そして秋 それはいまも変わらない

1300年前、日本の中心であった奈良 そんな奈良に におうあきいろ

写真・文 はしもとゆうすけ

霧中鹿

それまで激しく降っていた雨があがり日が差し始めた。

東を取るか、はたまた西へ進むか迷っていたのだが、距離のある東を選んで正解だった。

若草山は340㍍あまりの低い山だが、雨あがりには霧に包まれることが多い。

湿り気を含んだ冬毛をまとった雄鹿は、あたりを見回し仲間を探しているように見えた

大台ケ原

奈良県において大自然と言えばやはりここだろうか。

「日本百名山」のひとつでもあり、奈良県の北端に住む私としてはあこがれの山ではあるが、行くにはそれなりの装備と覚悟がいる。

実はこの写真を撮った日も10月の下旬だったのだが、あまりの寒さに手がかじかんで動かなくなるほどだった。

大台ケ原ドライブウェイの途中から、常緑樹と広葉樹の入り交じるパッチワークを、はるか遠くにかすむ山並みとともに。

生駒山上遊園地

奈良県と大阪府の県境にある生駒山。その頂上にはなんと遊園地がある。

奈良市には「あやめ池遊園地」と「奈良ドリームランド」があったが、それぞれ2004年と06年に閉園している。

この生駒山上遊園地は、入園者の減少や冬季の休園などにも負けず頑張って営業を続けているのだが、近年、思い切って絶叫マシンを排して「子どもと安心して楽しめる遊園地」に方向転換したことが功を奏し、入園者数は回復してきている。

写真は「サイクルモノレール」と言って、ご覧のように大阪平野の夜景を楽しみながら自分のペースで進むのりものである。

個人的にはこんなに楽しい遊園地は他にないと思っている。

大仏池にて

東大寺大仏殿にほど近い小さな池である。向こう岸からは大仏殿が見え、その姿を映す水面が美しいスポットだ。

イチョウの木がたくさんあり、落葉すれば黄色いじゅうたん。まるで童話の中に迷い込んだように錯覚する。

鹿もどうやらここがお気に入りらしいが、この辺りの鹿はなぜか警戒心が強い。春日大社参道にいる鹿などと違って、近寄ればすぐ逃げてしまう。

望遠で狙うのがお互いにとっていいだろう。

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御船の滝

滝は全国に数々あるが、いざ目指すとなるとなかなかたいへんなものだ。

山奥にあることが多いし、滑りやすい岩場など危険なことも多い。

そのような中でも、この御船の滝は車を止めて数分の徒歩ですむし、冬場でなければそれほど危険でもない。

冬場でなければ、と書いたのはじつは冬になればこの滝は凍ってしまう。氷瀑(ひょうばく)というやつである。

新緑の頃、紅葉の頃、氷瀑の頃、いつ行ってもこれほど美しい滝は珍しい。美しいその姿をぜひ確かめていただきたく、今回は横顔にしておく。

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招かれざる客

木の生い茂った所などによく出かけるせいか、クモの糸にひっかかることが多い。

担いだ三脚の脚を上下にゆらしながら、なるべく顔にかからないように歩く。

透明でパッと見では分からないくらい細いからやっかいだ。

さすがにこのくらい「獲物」がかかっていれば気づきやすい。クモからすれば文字通り「招かれざる客」となった紅葉の落ち葉。

やさしい秋風にくるくると回っていた。

行基さん

誰の像だか分かりにくくて恐縮だが、これは奈良時代の行基(ぎょうき)という僧である。

地下化された近鉄奈良駅を地上に上がるとこの像が迎えてくれる。「行基広場」とよばれ、奈良市民は親しみを込めて「行基さん」とよび、市民の待ち合わせ場所と言えばここだ。

同じものが3体作られ、霊山寺(りょうせんじ・奈良市)、九品寺(くほんじ・御所市)からそれぞれ東大寺の方を向いて立っているという。この写真は霊山寺にて。

だいだい色のひかりのなかで。

日本画のように

燃えるような赤ばかりが秋色ではない。

秋は木々の色も、空の色も、早朝の空気の色も違う。

だからこんな色の紅葉もあっていい。

和室の壁にかかっている日本画のようなイメージで撮った。

こうすれば傷んだ葉も何かを語りだす。

長岳寺

長岳寺は好きな寺だ。

自然豊かな広い境内に季節の花が咲き誇る。紅葉も見事なもので、本堂の前に立つモミジの生命力に満ちた姿は、満開の桜にもけっして負けない。

風そよぐ池に映る紅葉と本堂

水面に浮かぶ落ち葉は徐々に水分を含んで沈んでいく

延々と繰り返されていく

ひとの意識の及ばないところで

一瞬の静寂

思えばもみじの葉もいろいろである。

風に飛ばされて行方しれずになるもの、道端に落ちてほうきで集めて捨てられるもの、たき火の材料にされるもの、水面に落ちて未知の生物と遭遇するもの……。

沈んでしまうまでの数時間の浮遊はまさに静寂

餌と間違われて金魚に突かれた彼らは

はなればなれになって

こんなはずではなかったと沈んでいった(つづく)

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はしもとゆうすけ

サラリーマン写真家。1970(昭和45)年11月生まれの45歳。「奈良はよいとこ」 http://www.nara-wa-yoitoko.com/ で作品を公開中。鹿写真が好評。可愛いだけではなく、その「いのち」を撮ることに奮闘中。

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