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余録

西条八十の詩で唄を忘れたカナリヤをのせるのは…

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 西(さい)条(じょう)八十(やそ)の詩で唄を忘れたカナリヤをのせるのは「象牙の船」だった。「唄を忘れた金糸雀(かなりや)は/象牙の船に銀の櫂(かい)/月夜の海に浮(うか)べれば/忘れた唄をおもいだす」わけである。象牙には人を夢幻の世界にいざなう力があるようである▲古代ギリシャ人が夢の出てくる門と考えたのは「象牙の門」である。しかし象牙の門から出てくるのは逆夢(さかゆめ)、もう一つの「角(つの)の門」から出るのが正夢(まさゆめ)といわれた。古代ギリシャ語で象牙を表すエレファスの動詞形は「むなしい希望で人をだます」の意味だったそうだ▲大学を表す「象牙の塔」もある。その起源は19世紀フランスの芸術至上主義の詩人を評した言葉で、俗世間から離れて学究や創造に打ち込む営みを象徴する一方、その浮世(うきよ)離れをからかう言葉にもなった。こちらも厳しい現実から人を隔離する象牙の霊力のおかげか▲だがそんな人間界での象牙が、アフリカゾウを密猟、さらに絶滅の危険という恐るべき現実に直面させている。この10年でその生息数が約11万頭も減少する中、開催中のワシントン条約締約国会議では象牙の国際取引に加えて各国の国内取引の禁止が提案されている▲密猟増加の元(げん)凶(きょう)とされる中国もすでに国内取引を禁止する意向を表明した。となれば規制前の輸入品の売買を登録制で認める日本にも密売買への疑いの目が向けられる。政府は日本の国内取引が密猟を助長した事実はないというが、さて国際的な理解は得られるのか▲印鑑や和楽器に象牙を用いてきた日本人だが、密猟の阻止に向けた国際協力の現実とは真剣に向き合わねばならない。そこから身を隔てられる船、門、塔はない。

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