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消費者団体訴訟 新制度の上手な活用を

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 入学前に支払った前払い授業料の返還を拒まれたり、不良製品を売り付けられたりといった消費者トラブルが後を絶たない。

 消費者がこうした被害を受けた際、その回復を図りやすくするための新たな裁判制度が今月から始まった。消費者団体訴訟制度という。

 制度の仕組みはこうだ。同種被害が多発している事案で、被害者に代わり消費者団体が事業者を相手に訴訟を起こし、賠償責任があるか否か裁判所の判断を仰ぐ。責任が認定されれば、次の段階として被害者を募り、個別の被害者ごとに裁判所が賠償金額を確定させる。

 消費者と事業者には、情報量や交渉力で圧倒的な格差がある。消費者側を束ねることでその溝を埋めるのが制度の狙いだ。

 消費者庁によると、悪質商法などによる昨年の消費者被害の総額は約6兆1000億円に上ると推計される。高齢者の被害やトラブルも増加している。

 一方、消費者被害の7割は、被害額「50万円未満」で、「10万円未満」だと半数に上る。交渉して相手から納得のいく対応がない場合でも、手間や費用を考えると裁判を起こすのに二の足を踏んでしまう。

 制度の導入でこうした泣き寝入りを減らせる可能性がある。適切に運用し、消費者を守りたい。

 一足先の2007年、消費者団体が事業者の不当な行為を差し止め請求できる制度が導入された。ただし、それだけでは実際の被害補填(ほてん)につながらない。政府は被害回復が図れる団体訴訟制度の導入を目指したが、経済界の反対で難航した。

 多数の消費者が訴訟に参加すれば企業の経営への影響が大きいうえ、乱訴も懸念されるといった理由だ。だが、まっとうな経済活動をしている企業ならば、そもそも訴訟の対象になることは考えにくい。

 結局、違法な契約などによって消費者が失った金銭を返させることに制度の役割を特化し、慰謝料の請求などは手続きの対象外とした。政府が消費者団体を監督する仕組みも整えて、13年に法律が成立した。

 消費者の保護は市場への信頼度を高める。企業は、消費者本位を再確認し、よりよいサービスや商品の提供を徹底する契機としてほしい。

 この制度を生かすためには、提訴に当たる消費者団体が、悪質な消費者被害を的確に把握することが肝心だ。消費者契約法に基づき、国民生活センターや自治体に情報提供を要請できるが、企業活動の機微に触れる内容もあるため提供は限定的だ。端緒となる情報は、制度を動かす命綱だ。団体側に十分な情報が提供される仕組みを整えるべきだ。

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