金と暴力、セックス。目の前の欲望にとらわれた人間たちがふわふわと道を踏み外す。そんな小説世界にずっと浸っていたいのはなぜだろう。作家、辻原登さんが丹精を込めた『籠の鸚鵡(おうむ)』(新潮社)が刊行された。「自分で言うのも変ですが、読み返すとめちゃくちゃ面白かったです(笑い)」
物語の舞台は1984年から85年にかけてのバブル経済の入り口、和歌山県。梶はある町役場の手堅い出納室長だ。たまの日曜には和歌山市へ出て映画を眺め、酒を飲む。立ち寄ったバーのママのカヨ子から変態的な手紙が届き、下半身がうずく。カヨ子の後ろにいた暴力団員の峯尾に脅迫されて公金横領に手を染める。
『冬の旅』(2013年)、『寂しい丘で狩りをする』(14年)に続く、犯罪小説である。その筆致は人物の心理を書かず、言動だけをじっと見つめる。「実際の犯罪では徹底的に動機が追及されますよね。でも、僕は人間に内面はないと思っている。他者の言葉など、外からの影響によって我々は生きている」。カヨ子はそれを体現する。空洞なのだ。「男が善人なら善人に、ワルならワルに染まる。(男から見れば)可愛いわけです」
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